【映画】映画の聖地ハリウッドの山の上にあるハリウッドサインについて

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1.はじめに

映画ファンのみならず、世界中の人々にとってハリウッドのイメージを代表するもののひとつが、あの丘の上にそびえ立つ「HOLLYWOOD」のサインです。白い巨大な文字が山肌に並ぶ光景はあまりにも有名で、観光写真やハリウッドを舞台にした映画のシーンなど、さまざまな場所で目にすることができます。しかしながら、このハリウッドサインには紆余曲折の長い歴史があります。元々は町のPRのための広告看板のような存在でしたが、ハリウッドという地域自体が映画の一大拠点として成長するとともに、サインは世界中の人々が連想する“映画の都”の象徴として機能するようになりました。

ハリウッド

本稿では、このハリウッドサインの誕生の背景から現在に至るまでの流れを整理し、またそこから生まれる影響や象徴性について考察します。さらに、日本国内の人気温泉地のひとつである熱海の山に「ATAMI」という文字を大々的に掲げることを想定した場合、どのような影響があるのかについても検討してみたいと思います。映画界、観光地開発、地域活性化など、さまざまな視点を交えながら、あくまでひとつの試論としてまとめます。

2.ハリウッドサインの始まり

ハリウッドサインの歴史を語るうえで重要なのは、そもそもハリウッドサインが「映画の象徴」として誕生したわけではないという点です。1923年、ロサンゼルスのハリウッド地区で開発が進められていた住宅地「ハリウッドランド(HOLLYWOODLAND)」の広告看板として、この有名なサインが建てられました。看板の設置主は不動産開発会社で、ハリウッドヒルズの斜面に大きく「HOLLYWOODLAND」という文字を掲げることで、新興住宅地への注目を集めようとしたのです。
当時の看板は現在の「HOLLYWOOD」の文字よりもさらに長く、末尾に「LAND」が付いていました。しかも、その当時は各文字に電球が取り付けられ、夜になると点滅する仕組みも用意されていたといいます。背景には、不動産会社が巨大な電飾看板を活用して消費者にアピールしたいという意図がありました。しかしこのサインは、あくまで不動産の宣伝が目的の看板であり、永続的な設置物として計画されていたわけではなかったのです。

当初の予定では、ハリウッドランドの分譲が一段落すれば看板は撤去されるはずでした。しかし、後述するように映画産業の急成長によってハリウッドの知名度が世界的なものになるにつれ、この看板そのものに観光やシンボルとしての価値が芽生えていきました。やがて、看板を撤去してしまうのはもったいないという声が上がり始め、そこからサインの歴史が大きく変わっていったのです。

3.「ハリウッドランド」から「ハリウッド」へ

看板が設置されてから時代が進み、ハリウッドの都市化が進むにつれて、「ハリウッドランド」は単なる住宅地の名前を超えてしまいます。1920年代から1930年代にかけて、ハリウッドは映画産業の中心地として急激に成長していきました。アメリカ各地から映画制作者や俳優がハリウッドに集まり始め、スタジオが続々と開設され、多数の映画がここで生み出されるようになります。映画が全盛期を迎えるに伴い、ハリウッドという地域名そのものが“夢”や“スター”、“映像の魔法”といったイメージと結びつくようになっていったのです。
こうした過程で、元々は不動産広告であった「HOLLYWOODLAND」の看板も、時代の流れによって意味づけが変わっていきました。しかし、長年の風雨やメンテナンス不足もあり、看板は次第に傷みが目立つようになっていきます。そのころにはもう、不動産会社の宣伝としての役目より、“ハリウッドの象徴”としての期待のほうが大きくなっていました。1940年代後半に入ると、「LAND」の部分が崩れ落ちたり破損したりして、最終的には撤去されることになります。こうして「HOLLYWOODLAND」は「HOLLYWOOD」という文字だけが残る形となり、現在に繋がるハリウッドサインの姿へと変わったのです。

ハリウッド

4.ハリウッドサイン修復の歴史

4-1. 初期の維持管理

もともと恒久的な設置を想定していなかったこの看板は、長い間、十分な整備が行われていませんでした。木材やトタンなどが使われていたため、雨や風によるダメージで腐食が進み、文字の一部が倒壊したりしていたのです。市が看板の保存を決定した後も十分な資金が確保されず、管理が不安定なままでした。

4-2. 1949年の決定と市の関与

1949年にはロサンゼルス市が看板の所有権を取得し、修復に乗り出します。その際、「LAND」の部分がすでに崩れ落ちていたことや、ハリウッドが映画産業の代名詞となっていたこともあって、残った「HOLLYWOOD」の文字のみを復元することに決定しました。このときの修復工事でサインは一応の復活を遂げますが、相変わらず資金不足のために万全なメンテナンスとはいえませんでした。

4-3. 1970年代の大規模修復

1970年代に入ると、さらに経年劣化が進み、サインの文字が大きく損傷してしまいます。映画の都を象徴するサインがみすぼらしい姿のまま放置されるのはさすがに問題である、ということで、地元住民や著名人たちが修復資金集めに奔走しました。そのなかでも有名なのが、プレイボーイ誌の創刊者ヒュー・ヘフナーの主導による資金集めパーティーです。ここでは文字ごとにスポンサーを募り、集まった寄付金をもとにサインを大幅に修復しました。こうした活動によって、サインは文字の素材を金属などの耐久性の高いものに交換し、現代のようなしっかりとした構造物として再生されたのです。

4-4. 現在までのメンテナンス

その後もハリウッドサインは、ロサンゼルス市や「ハリウッドサイン・トラスト(Hollywood Sign Trust)」と呼ばれる団体の管理のもと、定期的なペンキの塗り替えや修繕が行われています。風や火災リスクなどに備えて、周辺の環境保全も含めた管理が実施されており、近年は防犯カメラやセキュリティシステムも整備されるようになりました。観光客やファンにとってはハリウッド訪問時の記念撮影スポットとして定着しており、その存在はもはや「映画の都」の景観の一部として欠かせないものとなっています。

5.映画産業におけるハリウッドサインの象徴性

ハリウッドサインは、世界的な映画産業の歴史を語るうえでも、欠かすことのできない象徴的存在となりました。実際にアカデミー賞の開催地がハリウッド近辺であることや、多数の映画スタジオや俳優事務所が集中している地域であることが、この看板の認知度をさらに高めています。映画のオープニングなどで見かけるあの山の風景は、一瞬にして「エンターテインメント」「夢」「グラマー」というキーワードを連想させるほど強力なブランド力を持っています。

また、多くの映画やテレビ番組の中でも、ハリウッドサインは頻繁に登場します。作品の舞台がハリウッドであることを強調するためには、サインの映像を挿入するだけで十分なインパクトを与えられるのです。さらに、映画以外にも音楽やファッション、その他のポップカルチャーにも影響を与え、ハリウッドサインの写真やロゴを模したデザインが各所で使用されています。その結果、ハリウッドサインは「映画の都ハリウッド」を象徴するだけでなく、「アメリカの夢」や「成功と栄光の象徴」という文脈でも語られるようになりました。

アメリカ国旗

6.ポップカルチャーとハリウッドサイン

ハリウッドサインは、しばしばパロディや模倣の対象ともなります。ハリウッドに関連のない場所でも、このサインをもじった看板が出現したり、映画やテレビの中で文字が差し替えられたりといった演出が行われることがあります。あるいは、写真加工アプリで文字を自由に変更できる機能が流行すると、SNS上で「HOLIDAY」や「HOLY COW」といった冗談めいた変化形がシェアされることもありました。
一方で、ハリウッドサイン周辺は長らく有名人の豪邸が立ち並ぶ高級住宅街としても知られています。このため看板に近づこうとする観光客やファンが押し寄せ、地元住民との間でトラブルになるケースもあります。近年ではセキュリティや立ち入り規制が強化されており、実際にサインのすぐ裏側へ到達することは難しくなっています。このような住民との軋轢(あつれき)は、ランドマークと住環境とのバランスをどのように維持するかという普遍的な問題を示唆しています。

7.ハリウッドサインの観光への影響

7-1. 地域経済への貢献

ハリウッドサインは、ロサンゼルス観光の目玉のひとつです。ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイム(ハリウッド大通りの有名人の名前入りの星印)やチャイニーズ・シアター(旧グローマンズ・チャイニーズ・シアター)などと並んで、観光客が「とりあえず見に行きたい」と考える場所になっています。サインそのものが有料の施設というわけではありませんが、観光客が集まれば周辺地域の飲食・お土産ショップ・宿泊施設などが活性化し、地域経済に大きく寄与します。

7-2. 映像制作の舞台

また、多数の映画やCM、音楽PVなどの撮影がサイン周辺で行われてきたことで、その映像が世界中に広まり、さらなる観光客誘致のきっかけになっています。ハリウッドサインが映り込むだけで、「あ、ここはハリウッドなんだ!」と一目でわかるため、視聴者に地理的背景を瞬時に伝える効果もあります。こうしてメディアを通じて拡散された映像が「いつかは現地を訪れてみたい」という観光需要を喚起し、より広範な経済波及効果を生んでいます。

7-3. 地域住民との関係

ただし前述の通り、観光客が増加すると住民にとっては騒音や交通渋滞、違法駐車などの問題が深刻化しやすくなります。サインへのアクセス道路を迂回(うかい)する、撮影スポットを限定するなど、観光客と住民が共存できる施策が模索され続けています。結果として、市はハリウッドサインを「近くで見る」ための公式ビューポイントを整備し、違法に立ち入れないように厳しい規制を設けるなどの措置を講じるようになりました。

8.「ATAMI」サインの構想

ここまで見てきたように、ひとつの巨大看板が地域の景観とイメージ形成に多大な影響を与えうることが分かります。では、もし日本の熱海という温泉地で「ATAMI」の文字を山の上に掲げるとしたら、どのような影響やメリット、あるいはデメリットが考えられるでしょうか。

熱海サイン アタミサイン

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8-1. 熱海の地理・観光の現状

熱海は静岡県に位置し、東京から新幹線で約1時間とアクセスが良好な温泉観光地です。美しい海と山に囲まれた地形を活かし、多数の温泉宿やホテルが建ち並びます。また、戦後には「新婚旅行のメッカ」として広く知られ、近年ではリゾートマンションや別荘地なども発達しており、観光客数は国内でも指折りの多さを誇ります。さらに、花火大会や海水浴、グルメなど、多彩な魅力を持つ地域です。しかし一方で、観光客が集中する特定のシーズン以外は人出が少ないなど、地域経済の波が大きい面も指摘されています。

8-2. なぜ「ATAMI」サインか

「ATAMI」の文字を山の上に大きく掲げることで、ハリウッドサイン同様に地域を象徴するランドマークとなる可能性があります。観光客が「熱海といえばあの看板」とイメージし、記念撮影をしたりSNSに投稿したりすることで、さらなるPR効果を狙うことができます。とりわけインバウンド観光が回復・拡大している昨今、外国人観光客の注目を集めるツールにもなるでしょう。

8-3. 建設に伴う課題

ただし、実際にサインを建てるとなると、いくつかのハードルがあります。第一に、設置場所の選定です。熱海は傾斜のある地形が多く、山の上には自然公園や保安林、私有地などが存在します。土地の所有権問題や景観条例、自然環境保護の観点から、自由に巨大看板を建てるわけにはいかないでしょう。第二に、維持管理費の確保です。ハリウッドサインの例でも分かるように、看板を長期的に維持するためには定期的な修繕や塗装が欠かせません。台風や豪雨などの自然災害に備えるための構造的な強化も必要です。

8-4. 地域住民との対話

巨大看板を設置すると、当然ながら地域住民への影響も生じます。看板が地元住民にとっての誇りや観光資源になる一方で、景観を壊す可能性や、訪問客による渋滞や騒音などの懸念も大きいでしょう。特に温泉街としては、静寂や落ち着きが観光客を引きつける重要な要素となる場合があります。大がかりなランドマークができることで一気に注目を浴びれば、街の雰囲気自体が様変わりするかもしれません。したがって、市や観光協会は事前に十分な住民説明会や合意形成の場を設ける必要があります。

9.「ATAMI」サインがもたらすメリットと懸念点

9-1. メリット

(1) 観光客増加による経済効果

巨大なランドマークはそれ自体が観光コンテンツとなるため、看板を一目見ようとする人々が来訪する可能性が高まります。周辺の飲食店や土産物店、宿泊施設が潤うなど、地域経済の活性化が期待できます。特にSNSによる拡散効果は現代では見逃せず、多数の旅行者が写真を撮って発信することで、熱海のブランドイメージが広く共有されるでしょう。

(2) 国内外への認知度向上

インバウンド需要の取り込みにも寄与します。「ATAMI」というローマ字表記が視覚的にわかりやすく、大きな文字が山肌に並ぶ風景は外国人観光客にとってもインパクトがあります。ハリウッドサインと同様に、映画のワンシーンやSNS投稿などを通じて「熱海にあんな看板があるんだ」と話題になれば、他地域とは異なる強いブランドを築けるかもしれません。

(3) 新たなイベント・メディア活用の可能性

看板の周囲でフェスやイベントを企画するなど、観光資源としての活用の幅が広がります。また、ドラマや映画、CM撮影などにサインを使うことで、さらに熱海の露出を高めることも考えられます。既存の花火大会や海上アクティビティと合わせて、看板が映える演出をすることも可能でしょう。

9-2. 懸念点

(1) 景観破壊の可能性

山の上に巨大なローマ字看板を置くことが、温泉街としてのレトロな風情を壊してしまうかもしれません。熱海には歴史ある旅館や風情ある街並みも多く、こうした既存の文化的価値を損ねないよう配慮する必要があります。

(2) 地域住民との衝突

ハリウッドサインの場合と同様、観光客の車やバスが殺到して住宅街を走り回るなど、住民の生活環境に悪影響を及ぼすことが懸念されます。地域住民との対話なしに計画が進めば、反対運動に発展する可能性も十分考えられます。住民にとっては平穏な生活が損なわれるリスクが大きいので、事前の合意形成と観光客誘導策が不可欠です。

(3) 維持管理コスト

設置時の費用だけでなく、塗装や清掃、セキュリティなど、看板を存続させるためのコストは長期的にかかり続けます。スポンサー企業を募るなどの方法で資金を確保できるかどうか、管理団体をどのように運営するかも大きな課題です。ハリウッドサインの場合のように、著名人や企業が資金を拠出すればよいのかもしれませんが、それを実現するためには強いリーダーシップやクリエイティブな資金集めが必要となるでしょう。

(4) 観光客のマナー・治安維持

大勢の観光客が来訪すると、ゴミのポイ捨てや騒音、夜間の騒ぎなど、地域社会にとってはマイナスとなる現象も出てきます。看板周辺の治安を守るために、監視カメラや警備員の配置をどうするのか、費用負担は誰が行うのかといった具体的な検討が求められます。これらの問題が未解決のまま観光客が押し寄せれば、結果的に地域のイメージダウンに繋がる恐れがあるのです。

10.まとめ

ハリウッドサインは、もともと不動産開発のための広告看板として誕生し、その後、映画産業の発展とともに世界的なシンボルへと変貌を遂げました。修復・存続の過程では地元住民や有名人、企業からの寄付など、多くの人々による支援が不可欠だったことも特徴的です。サインの存在はハリウッドのブランディングに大きく寄与し、観光客を呼び込む強力な“広告塔”となっています。
一方で、そのようなランドマークの大きな影響力は、地域住民の生活や環境、文化的景観とのバランス調整を常に必要とします。ハリウッドサインの管理にはいまだに様々な議論があり、アクセス問題やプライバシー侵害の問題などがくすぶり続けているのも事実です。

もし熱海に「ATAMI」サインを設置するならば、ハリウッドサインの成功例と問題点の両面から学ぶことが重要です。観光資源としてのポテンシャルは高いかもしれませんが、そのためには長期的な視点での土地利用計画や景観・環境への配慮、そして地元住民との連携が不可欠です。熱海にはすでに豊富な自然や温泉文化、イベント資源が存在するだけに、看板によるブランディング強化がうまく機能すれば、新たな観光名所として大きく飛躍する可能性も考えられます。しかし、実際に設置するとなれば多方面での調整が必須であり、それらをクリアしてようやく“次なるハリウッドサイン”に近い存在となれるのでしょう。

映画考察のブログに掲載する視点から言えば、ハリウッドサインの物語は、映画の歴史と併走する物語でもあります。1920年代から今日に至るまで、多くのドラマを内包しながら今もそこに存在するのは、決して偶然ではありません。新たな地域の象徴を創るという発想は、映画が私たちに夢や物語を与えてくれるように、地域の発展とそこで生きる人々の未来を支えるひとつの“夢”や“挑戦”になり得るのです。ハリウッドサインの歴史から学べることは多く、熱海をはじめとする各地の活性化策を考えるうえでも大いに参考になるはずです。

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