【映画】「葛藤」で映画はここまで深くなる:ハリウッド脚本術の秘密と名作に学ぶキャラクター描写

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なぜ「葛藤」が映画の要となるのか

映画を観るとき、私たちはスクリーンに映し出される物語とキャラクターに心を奪われます。その物語に引き込まれる大きな要因のひとつが「葛藤」です。人間は本能的に“争い”や“意見の相違”に興味をそそられます。それが対人関係の衝突であっても、主人公が自分の心と戦っている場合でも、私たちはつい結果がどうなるのか見届けたくなる。これはある種の心理的欲求であり、「ドラマの本質は葛藤にある」というハリウッドの脚本術の根底を象徴しています。

葛藤がなければ物語は前進しません。主人公が困難なくゴールに辿り着く物語ほど退屈なものはありませんし、観客は登場人物に共感するための“起伏”を見失ってしまいます。ドラマツルギーにおいて「葛藤」は、キャラクターの内面を掘り下げ、物語全体の世界観を形づくり、作品にリアリティと緊張感を生み出す、いわば“物語を動かす原動力”と言えるのです。

「葛藤」で映画はここまで深くなる

ハリウッド脚本術における「葛藤」の位置づけ

ハリウッド式の脚本執筆法では、ストーリーの中心には「主人公」と「主人公が直面する問題(ゴールに到達するための障害)が必要不可欠」というセオリーがあります。そこに明確なゴールと“乗り越えるべき問題”が設定されることで、観客は自然と「どうやって困難を乗り越えるんだろう」と期待を抱きます。言い換えれば、この“問題”そのものが葛藤を生む装置となっているわけです。

ロバート・マッキーやシド・フィールドなど、脚本術において有名な理論家や指導者たちは、脚本を執筆するときに“コンフリクト conflict(葛藤)”の明確化を特に重視します。台詞や場面展開で葛藤を際立たせる構成、キャラクター同士の関係性の軋轢など、細かな手法は数多く存在しますが、共通しているのは「主人公が何を求めていて、その道中で何が衝突や迷いを生むのか」を最初にしっかり定義している点です。

これによりストーリー全体が「追い求めるもの vs. それを阻む要素」の構図を基盤として動き始めます。その結果、観客は心の底から物語に没入し、「最終的に主人公はどうなるのか?」という強い関心を抱き続けられるのです。

「葛藤」の種類と具体例

ハリウッド脚本術で語られる「葛藤」の種類は多岐にわたりますが、大まかにいくつかのカテゴリに分けることができます。これらを意識的に使い分けることで、物語にさらなる厚みやバリエーションが加わります。

1. 内的葛藤

登場人物が自分の気持ちや価値観、恐れやトラウマなどと戦う葛藤です。たとえば「社会的に成功したい一方で、家族との時間を大切にしたい」というような相反する欲求に挟まれる状態が描かれます。内面のジレンマを丁寧に描くことで、キャラクターへの共感度は高まり、観客も自身の経験や心理に投影しやすくなります。

2. 外的葛藤

主人公と周囲の人々、もしくは環境が衝突する場合です。たとえば「悪の組織と戦うヒーロー」のような構図や、会社での不正や派閥争いに巻き込まれる主人公などが典型例です。このタイプの葛藤は分かりやすく、視覚的に映えるアクションや対立シーンを伴うことが多いので、エンターテインメント性も非常に高くなります。

3. 人間関係の葛藤

家族、恋人、友人、同僚など、近い間柄の人物同士が衝突することで生まれる葛藤です。これは「外的葛藤」の一部でもありますが、とりわけ感情的・心理的な衝撃をもたらすため、作品のテーマやメッセージを色濃く描く際に使われることが多いです。たとえば家族映画やラブストーリーでは、「大切な相手とのすれ違い」がクライマックスへ向けた最大の壁となる展開が多々あります。

4. 社会・世界観との葛藤

個人が巨大な社会構造や理不尽な世界の掟と対峙するタイプの葛藤です。ディストピア映画や社会派ドラマなどで顕著に見られ、主人公が体制や宿命に抗うストーリーは私たちの心を揺さぶります。現実社会への鋭い批判や人間の尊厳の描写が入り込むことで、エンターテインメントを越えた深い物語性を与えます。

名作ハリウッド映画に見る「葛藤」の活用例

1. 『ゴッドファーザー』:ファミリー・忠誠・自我

マフィア映画の金字塔として知られる『ゴッドファーザー』では、マイケル・コルレオーネがファミリーの長としての責務と自分自身のアイデンティティの狭間で苦悩する姿が丁寧に描かれます。彼は当初は暴力の世界を嫌いながらも、家族を守るために深みにはまっていく。その内面の葛藤が壮大なドラマへと展開し、最終的にはマイケルが誰よりも冷酷なファミリーの首領へ変貌していくさまが圧巻です。

2. 『タイタニック』:身分差・運命への抵抗

豪華客船での悲劇的ラブストーリー『タイタニック』は、ジャックとローズの身分差を中心に、当時の社会階層の葛藤が物語を動かしています。船が沈むという外的要因(天災に近い大惨事)だけでなく、ローズの母や婚約者との衝突、社会的制約など多重の「葛藤」が生まれることで、単なる恋愛映画では終わらず、運命に抗う人間のドラマへと昇華しているのが特徴です。

3. 『スター・ウォーズ』:光と闇、血統と使命

世界的なスペースオペラ『スター・ウォーズ』シリーズでは、フォースの暗黒面と光明面との葛藤をはじめ、ルーク・スカイウォーカーやアナキン・スカイウォーカーが「自らの宿命や使命とどう向き合うのか」という内的葛藤が何度も繰り返されます。ライトセーバーを使った派手なアクションが見どころである一方、登場人物が抱く「家族とは」「師弟関係とは」「運命とは」という哲学的テーマを軸にした内面的衝突が観客を物語へ引き込む大きな要因となっています。

4. 『ジョーカー』:社会への不満と自己存在の承認

比較的新しい作品である『ジョーカー』は、バットマンの宿敵ジョーカーの誕生譚をリアルで陰鬱な切り口で描いた話題作です。ここでは主人公アーサー・フレックが抱える深刻な内的葛藤と、荒廃したゴッサム・シティ社会に対する衝突が交互に重なり合い、一人の男性が狂気へと堕ちていく過程を徹底的に突き詰めています。社会問題の暗示や自己存在の意味を問いかけるストーリーにより、「外的葛藤 × 内的葛藤」の緊張感が鮮やかに描き出されています。

「葛藤」を活かすストーリーテリングの実践的ヒント

ここからは、ストーリーテリングにおいて葛藤をいかに効果的に配置すればよいか、その実践的なポイントを挙げてみましょう。

1. キャラクターを深く描く

「なぜそのキャラクターはその行動を取るのか?」という根本的な問いに答えられる程度には、キャラクターの経歴・価値観・性格・欲望などを作り込みましょう。葛藤を生むためには、「キャラクターが求めるもの」と「キャラクターが恐れるもの」が明確であることが大事です。ここがあいまいだと、物語の芯がぼやけてしまい、観客が共感しにくくなります。

2. 対立軸を鮮明にする

主人公が何を望み、 antagonist(対立者)や社会的障壁が何を阻むのかという対立軸を明確に示すことで、「この争いには決着がつく必要がある」という必然性が生まれます。コミカルな作品でもシリアスな作品でも、明確な“力関係”や“利害の食い違い”があるほど、観客は映画の行方に興味を抱き続けやすくなるのです。

3. 観客の感情移入を生むタイミング

葛藤を生むシーンをただ配置すれば良いというわけではありません。それが観客の胸に刺さるかどうかは、葛藤が起きる“タイミング”にも大きく左右されます。主人公がある程度の愛着を獲得してから、つまりキャラクターの魅力や背景がわかり始めた頃に劇的な葛藤が訪れると、観客は強く引き込まれます。これが冒頭すぐでは弱い場合もありますし、逆にあまり後半すぎると物語全体が盛り上がりに欠けてしまう。脚本家は、起承転結の流れを意識しながら、最適なタイミングで“大きな衝突”を配置します。

4. 「伏線」と「決着」の相乗効果

葛藤が発生したときに、何気ないセリフや小道具、シーンの演出などで巧みに伏線を張っておくと、後にそれが回収される瞬間に大きなカタルシスが生まれます。観客は「なるほど、あの時の伏線がここで繋がるのか」と感嘆し、作品の完成度の高さを感じ取るのです。この伏線の回収こそが“葛藤の決着”に付随する“ご褒美”でもあります。

「葛藤」を支える脚本構造:三幕構成・ビート・プロットポイント

ハリウッド脚本の伝統的な書き方のひとつに「三幕構成」があります。これは物語を大きく「第一幕(セットアップ)」「第二幕(コンフリクトの発展)」「第三幕(解決)」に分割する方法で、スクリーンライティングの基礎理論としては非常に有名です。

  • 第一幕
    世界観やキャラクターが提示され、主人公が抱える目的や問題が明らかになります。ここで観客が「主人公はどういう人で、どんな葛藤を抱えているのか」を知る重要な幕です。
  • 第二幕
    主人公が困難や妨害に対処していく過程が描かれます。この過程で登場人物たちが互いにぶつかり合い、内的・外的葛藤が深化し、物語はクライマックスへ向けて加速していきます。
  • 第三幕
    積み重なった葛藤が最終的に解消(もしくは別の形で転化)される決着の幕です。主人公が成長を遂げたり、世界が変わったり、あるいは悲劇的な結末を迎えたりするかもしれませんが、その「結末」はすべて第二幕までに生じた葛藤の結果として描かれます。

これらの幕の間には、プロットポイントやミッドポイントなどの重要な転換点(ビート)があり、それぞれのタイミングで葛藤がさらに強まったり、方向転換したりします。脚本家はこうした構造を意識しながら、葛藤を段階的にエスカレートさせ、観客に持続的な緊張感と期待感を与えるわけです。

「葛藤」を取り巻くテーマやメッセージ性

ただの対立や衝突だけでは、人々の心に深く残る作品にはなかなか結びつきません。その裏には作品を貫くテーマやメッセージが存在し、「この葛藤は実は人間の○○を表している」という文脈の中でこそ、強い感動や示唆が生まれます。

1. 人生観や哲学を見せる

たとえば、「家族の再生」をテーマに描かれる作品では、家族間の葛藤は「愛とは何か」「許しとは何か」という普遍的な問いを映す鏡となります。主人公同士がどのように対立し、どのように和解していくかを通じて、映画は家族の絆にまつわる普遍的なメッセージを提示します。観客はそのプロセスに心を動かされ、自分自身の体験に置き換えて考えるようになるのです。

2. 社会性・普遍性との結びつき

先ほど例に出した『ジョーカー』のように、社会構造や格差、偏見、暴力といった普遍的問題に葛藤が結びつくと、その作品はエンタメ性を越えた強烈な主張を持つことができます。娯楽映画であっても、戦争の悲惨さや人種差別の問題を前面に打ち出すことで、観客に強いインパクトを与え、時として社会を動かす原動力にさえなり得るのです。

葛藤を操る力

脚本家を目指す方にとって、「葛藤」はキャラクターを立体化し、読者や観客の心を動かすための最強の武器となります。以下では具体的なアドバイスをいくつか紹介します。

1. キャラクター構築時のポイント

  • 欲求(Goal):キャラクターが強く望むものは何か?
  • 恐怖(Fear):何を最も恐れているか?
  • 動機(Motivation):その欲求や恐怖を抱くに至った背景は?
  • 障害(Conflict):何がゴールを阻んでいるのか? その障害を取り除くには何が必要か?

このような質問をキャラクターごとに設定しておくことで、より明確な内的・外的葛藤を生み出しやすくなります。

2. スケールに合わせた葛藤の段階的展開

長編映画であれば、最初は小さな葛藤から始まり、それを乗り越えた先にさらに大きな葛藤が待ち受ける…という段階的展開が効果的です。スケールアップしながら物語を展開させることで、クライマックスでの衝突がより大きなインパクトを持ち、観客の興奮を最大限に高めます。

3. 「予想外」の結末へ導く工夫

葛藤がどのように決着するのか、観客がある程度予想してしまう場合があります。そこで、一筋縄ではいかない解決策やどんでん返しを用意しておくと、作品全体が新鮮な印象をもつでしょう。ただしあまりにも唐突な展開は「ご都合主義」と捉えられかねないため、伏線やキャラクター設定によって自然な形で着地点を導く工夫が必要です。

まとめ:葛藤が生み出す奥行きこそ物語の核心

「葛藤」は、物語を動かす原動力であり、キャラクターの内面を浮き彫りにし、観客の共感と興奮を最大化する最重要の要素と言えます。ハリウッド脚本術では、主人公や周囲の人物が抱える欲求と障害を明確にし、それらがどのように衝突し合うかを緻密に計算することで、濃密なドラマを創り上げてきました。

映画を深く観るうえでも、この「葛藤」を軸に作品を捉えてみると、キャラクターの言動や構成上の仕掛けがさらに鮮明に見えてきます。脚本家志望の方はもちろん、映画ファンであっても、「なぜこのシーンがこんなに心に残るのか?」「どこでキャラクターは本当の意味で成長したのか?」といった問いを立てる際には、必ずその裏にある“葛藤”に注目してみてください。そこには必ず、作品の真髄へと繋がる鍵が隠されています。

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