【映画】脚本術『Save the Cat』8つのキーワード

映画好きの方なら、一度は「脚本の書き方」に興味を持ったことがあるかもしれません。映画というエンターテインメント作品の中で語られる物語は、実に多彩。そして、われわれが物語を作るとき、脚本の出来が作品の土台となることは言うまでもありません。

そんな脚本術の中でも注目されているのが、Blake Snyder(ブレイク・スナイダー)による『Save the Cat』というメソッドです。これは、脚本作りをするうえでの指針を示し、どのように物語を構築すれば観客の心をつかみ、最後まで飽きさせずに引き込めるかを解説してくれる名著です。

SAVE THE CATの法則

本記事では、そんな『Save the Cat』の基本的な考え方を踏まえながら、以下に挙げられた8つのキーワードを軸にして解説していきます。

  1. プールで泳ぐローマ教皇
  2. 魔法は1回だけ
  3. パイプの置きすぎ
  4. 黒人の獣医
  5. 氷山、遠すぎ!
  6. 変化の軌道
  7. マスコミは立ち入り禁止

どこか謎めいたフレーズもありますが、これらはストーリー作りのうえで大事な注意点やヒントを象徴的に表現していると思ってください。実際の人気映画を例にとりながら、脚本家を目指す初心者の方にも分かりやすいよう、じっくり解説していきます。

これから映画脚本を書いてみたいと思っている方、あるいは物語構成に興味を持っている方にとって、少しでもお役に立つ情報になれば幸いです。

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『Save the Cat』とは何か?

まずは本題に入る前に、『Save the Cat』自体を簡単におさらいしておきましょう。著者のブレイク・スナイダーは、ハリウッドで活躍した脚本家であり、その理論書である『Save the Cat』は「魅力的な主人公を提示し、観客がそのキャラクターに共感して応援したくなる瞬間=“Save the Cat(子猫を救う)シーン”を作ることが重要だ」という考え方を紹介しています。

物語において、主人公が明確に示され、彼または彼女が魅力を発揮するシーンを設定することで、観客は自然にその人物を好きになり、困難に巻き込まれても「頑張れ」と応援したくなります。そうした共感や応援の気持ちが生まれることで、映画全体への興味と没入度が高まるわけです。

スナイダーは脚本を書く際に、「ここで主人公がこういう行動をすることで観客の心をつかむ」「15ページ目(映画全体の1/10あたり)でテーマを提示する」「脚本全体をビートで区切り、各ビートに求められる役割や特徴を押さえる」といった具体的な手法を教えてくれます。この構成法は多くのハリウッド映画にも応用されており、初心者にとっても学びやすい理論です。

1. プールで泳ぐローマ教皇

最初に取り上げるのは「プールで泳ぐローマ教皇」という、どこか奇妙なフレーズです。これは本来『Save the Cat』に直接出てくる言葉ではありませんが、脚本執筆時に「観客が目を奪われるようなインパクトのあるイメージや状況を設定しよう」という教えを象徴的に言い表していると考えてみてください。

ローマ教皇という、伝統や格式の象徴のような存在を「プールで泳ぐ」というまったく意外なシチュエーションに置く。このギャップが面白さを生み出します。これを初心者が脚本で活かすなら、「意外性のある場面設定」と言い換えると分かりやすいでしょう。

  • 実際の映画例:『パディントン』シリーズ
    ロンドンにやってきた小熊のパディントンが、普通ではあり得ない騒動を起こしてしまう場面は、可愛らしい動物(しかも熊)が人間の生活圏でまるで子どものように振る舞うギャップが楽しく、観客の興味を一瞬で引きつけます。
  • 意外性の力
    例えば『チャーリーとチョコレート工場』でも、奇抜なウィリー・ウォンカのチョコレート工場に潜り込む子どもたちが体験する非日常的な世界は、視覚的にもストーリー的にも強烈なインパクトを与えました。

このように、一瞬「え?」と思わせるような意外なシチュエーションは、観客を物語に引き込む大きな武器になります。序盤にこうした驚きを仕込むと、「この映画、ちょっと面白そう!」と引き続き観てくれる可能性が高くなるのです。

2. 魔法は1回だけ

次に挙げるキーワードは「魔法は1回だけ」です。これは脚本における“都合のいい展開”や“過剰なご都合主義”を警戒しようという教訓として捉えると分かりやすいと思います。すなわち「物語の世界観で特別な力を出すならば、それが頻繁に使われてしまうと観客は物語を疑い出す。1回だけであれば驚きやワクワク感が生まれるが、何度も出すと“便利すぎる”展開で白けてしまう」というわけです。

  • 実際の映画例:『シンデレラ』
    魔法でカボチャが馬車に変わるシーンは、ディズニーの名場面の一つ。しかし物語が進むうちに、その魔法は真夜中に解けてしまい、もう一度気軽に「はい、また魔法をかけましょう」とはならないわけです。もし何度も魔法を使えてしまうとシンデレラの苦境が解決しすぎてしまい、物語の緊張感が失われます。
  • 頻度とタイミングを考慮
    物語を成立させるための“ひとつだけの奇跡”や“限られた瞬間だけ使える力”を設定することで、観客は「どうやってこの局面を乗り越えるのだろう?」とハラハラドキドキを楽しめるのです。主人公が制約の多い状況で頑張るからこそ、共感して応援したくなるわけですね。

初心者の脚本家が落ちいりがちなのは、“都合が良すぎる展開”。もし何度も「魔法のような力」や「超現実的なひらめき」で問題を解決させてしまうと、観客は白けてしまいます。一度だけ、あるいは最小限に抑えることが、物語をより引き立てるというわけです。

3. パイプの置きすぎ

「パイプの置きすぎ」とは、「伏線を張りすぎることで観客に混乱やストレスを与えてしまうこと」を指す比喩として考えると理解しやすいと思います。脚本では、先の展開を予感させたり、後で効いてくる要素を散りばめたりする“伏線”がとても重要です。しかし伏線を張りすぎたり、複雑な情報ばかりが最初に大量投入されすぎると、観客の頭の中で情報処理が追いつかなくなり、かえって興味を失ってしまうことがあります。

  • 実際の映画例:『インセプション』
    夢の中でさらに夢を見て…という多層的な構造が話題となったクリストファー・ノーラン監督の作品ですが、導入部では観客を引き込むだけの必要最小限の設定に絞って提示し、中盤以降で細かな仕掛けや夢の階層のルールを説明していきます。最初に“パイプ”となる情報を過剰に置きすぎないことで、「難解だ」と言われる作品ながらも大衆的なヒットを収めることができたわけです。
  • 伏線の優先度とタイミング
    あれもこれもと伏線を入れたい気持ちを抑え、物語全体のペース配分を考えながら、少しずつ「これは後で効いてくるぞ」という予感を重ねていくことが大切です。初心者脚本家の場合、「面白いアイデアを全部入れたい」という気持ちが強くなるのは当たり前。でも、それらのアイデアをいつ、どのように、どの程度提示するかは、より熟練した脚本家を目指すうえで大切なバランス感覚です。

4. 黒人の獣医

これはちょっと解釈が難しいキーワードですが、ここでは「ステレオタイプへの注意」を象徴していると考えてみてください。たとえば「黒人のキャラクター」「獣医」という設定を組み合わせたときに、下手をすると単なるステレオタイプ的表現に陥りかねない、あるいは表面的な“とってつけたような”多様性描写になってしまうことがあります。

  • 実際の映画例:『ブラックパンサー』
    Marvel Cinematic Universe(MCU)の『ブラックパンサー』は、アフリカの架空の国ワカンダを舞台に、黒人キャラクターが多数登場し、多様性を肯定的に描き出したことで大きな話題を呼びました。ただそこには「黒人だからこういう役割を与える」ではなく、「そのキャラクターの背景やモチベーションがしっかり構築され、物語に不可欠な存在として描かれている」からこそ、全世界で評価された面があります。
  • ステレオタイプを乗り越えるキャラクター作り
    物語に登場させるキャラクターが、ただ単に“多様性”を埋めるためだけの存在になっていないか。そのキャラクターなりのバックストーリーや目的、性格、感情などをしっかりと掘り下げる必要があります。「黒人の獣医」として登場させるなら、「そのキャラクターがなぜ獣医になったのか」「どのような人生経験を経てきたのか」といった部分を深く考え、映画全体の物語に有機的に組み込むことで、観客に納得感を与えられます。

ステレオタイプで語られる表層的な設定ではなく、きちんとキャラクターの存在理由と魅力を形作ってあげましょう。それが脚本家としての重要な使命です。

5. 氷山、遠すぎ!

「氷山、遠すぎ!」というフレーズは、タイタニック号が氷山と衝突する場面を連想させるかもしれません。大きな問題(ここでは“氷山”)が見えているのに、いつまでたってもその問題に取りかからなかったり、問題発生のタイミングが遅すぎて観客を退屈させてしまったりする危険を指摘する表現として考えられます。

  • 実際の映画例:『タイタニック』
    ジェームズ・キャメロン監督の『タイタニック』では、タイトルどおり豪華客船タイタニック号の悲劇が描かれます。氷山の衝突という大惨事は映画のクライマックス的な位置づけですが、その代わりに最初から乗客たちの人間模様や主人公ジャックとローズのロマンスで観客を惹きつけます。さらに、船内での緊張感を高めるシーンを適宜配置し、氷山と接触するまでの間に観客が退屈しないようなドラマ展開がされているのです。
  • 大きな問題と序盤・中盤・クライマックスのバランス
    もし氷山があまりに遠く、登場までがダラダラと長すぎる上に、魅力的な人間ドラマもなければ、観客は「あれ、いつになったら物語が動くんだろう?」と退屈してしまうでしょう。逆に最初から衝突してしまうと、クライマックスに向けた緊張感の継続が難しくなる。

「いつ、どのタイミングで大問題を発生させるのか」「衝突までをどう面白くつなげるのか」「衝突後にどう収束させるのか」を考えることが脚本家には求められます。目に見える大惨事(氷山)にとらわれすぎず、その前後のドラマをどう作るか、が重要なのです。

6. 変化の軌道

『Save the Cat』のなかでも特に強調されるのが、主人公(あるいは主要キャラクター)の“変化”です。映画や物語において、キャラクターが精神的・感情的に大きく成長する過程は観客の心を動かす核心的要素となります。「変化の軌道」とは、キャラクターがどのように変わっていくか、その一貫した流れやプロセスを示すものです。

  • 実際の映画例:『美女と野獣』
    ディズニーの代表的なストーリーのひとつ『美女と野獣』では、野獣が冷酷なモンスターのような姿から心を開いていき、ベルもまた彼の内面を見ようと努めることでお互いに成長していきます。最終的に野獣は呪いが解け、人間に戻る。これは見た目のみならず、内面の成長と愛の力を象徴的に表していると言えます。
  • 明確な起点と終点、そして抵抗や試練
    初心者脚本家が意識すべきは、キャラクターの「心の動き」をちゃんと書き込むこと。最初から最後まで同じ性格・同じ状況で変化がない主人公だと、観客はストーリーを見守るモチベーションを失いがちです。誰かと出会ったり、困難を経験したり、新しい視点を得たりすることで変わっていく過程を丁寧に描くと、主人公がいっそう身近に感じられます。

「変化の軌道」の中には必ず“葛藤”や“対立”が生じます。そこにドラマが生まれるからです。スムーズに変わるのではなく、抵抗や葛藤を乗り越えてこそ、最終的な変化が感動を呼ぶものになります。

7. マスコミは立ち入り禁止

「マスコミは立ち入り禁止」は、文字通りに解釈すると“報道陣がお話に入り込まない”という意味ですが、脚本づくりの観点では「ストーリーの世界に余計な外部要素を持ち込まない」「集中した空間を設定する」という意識としてとらえられます。

  • 余計な視点を加えすぎない
    たとえば、クローズドサークルもののミステリー(『そして誰もいなくなった』など)を考えるとき、外部の警察やマスコミなど大勢が介入してくると、その閉鎖空間での緊張感が薄れてしまうことがあります。あえて外部との接触を断ち、限られた場所・人数でドラマを展開させることで、物語に集中させる方法です。
  • 視点の数を制限して物語に没頭させる
    とくに初心者脚本家の場合、いろいろな人に登場してもらい、いろいろな出来事を次々に起こしたいという思いが強くなることがあります。しかし、それで物語が広がりすぎると、焦点がぼやけてしまう。だからこそ、「今この物語でフォーカスすべき登場人物や要素は何か」をしっかり見極めることが大事です。

「マスコミは立ち入り禁止」のように、外部からの干渉を一度シャットアウトして主要キャラ同士のドラマに注力すると、緊張感や葛藤を浮き彫りにできます。制約を作ることで、脚本はより濃密になっていくのです。

8. 『Save the Cat』理論と総合的なまとめ

ここまで見てきたキーワードを、あらためて振り返ってみましょう。それぞれが脚本家にとって重要なヒントや注意点を示唆しています。

  1. プールで泳ぐローマ教皇:意外性やギャップを狙ったインパクトのあるシチュエーションを設定し、冒頭や見せ場で観客をグッと引き込む。
  2. 魔法は1回だけ:都合の良い展開や“チート能力”を乱用せず、あくまで物語に限られた特別さを与え、観客を白けさせない。
  3. パイプの置きすぎ:最初から伏線や情報を詰め込みすぎることなく、必要なタイミングで小出しにしていくことで、観客を混乱させない。
  4. 黒人の獣医:ステレオタイプにならないよう、多様性を表現するときもキャラクターの背景や必要性を丁寧に構築する。
  5. 氷山、遠すぎ!:大きな問題を遠くに設定しすぎるだけでなく、その前後のドラマやタイミングをうまく配分し、観客を飽きさせない。
  6. 変化の軌道:キャラクターがどのように成長・変化していくかを明確に描き、物語に欠かせないドラマチックな要素を作る。
  7. マスコミは立ち入り禁止:外部からの余計な干渉を排し、主要キャラのドラマに集中できる環境や制約を作ることで深みを持たせる。

『Save the Cat』の理論にあるように、映画を面白くするためには「主人公に感情移入してもらう仕掛け」がとても大事です。冒頭で主人公が子猫を救う(あるいはそれに準ずる好感度の高い行為をする)など、一瞬で「このキャラを応援したい!」と思わせる瞬間を作ってあげる。その瞬間がしっかりと成立したうえで、物語全体をリズムよく、ポイントを押さえつつ展開していけば、観客は最後まで追いかけてくれます。

初心者の脚本家に向けた具体的アドバイス

ここまでキーワードに沿って説明してきましたが、改めて初心者の方が脚本を書くときに意識したいことをまとめます。

1. まずは主人公の設定を徹底的に固める
主人公の年齢、性別、容姿、性格、仕事、趣味、家族構成など、表層的な情報だけでなく、「何を嫌がり、何を望み、何を恐れ、何を夢見るのか」といった内面まで考え抜きましょう。そのうえで“Save the Cat”シーン、つまり「このキャラを応援したい!」と思わせる行動がどこにあるかを明確にしてください。

2. テーマはなるべく早く提示する
『Save the Cat』の指針によると、映画全体の1/10付近(脚本ページでいう15ページ前後)にはテーマが示されるべきだとしています。明確に口に出す形でも、象徴的なシーンでも構いませんが、「この物語は何を扱うのか?」「主人公はどんな試練を通じて何を学ぶのか?」を観客に想像させるポイントを設計すると良いでしょう。

3. ビートシートを活用する
『Save the Cat』の代名詞でもある「ビートシート」は、物語を要所要所で区切り、各区切りでどんな出来事を起こすべきかを整理する枠組みです。例えば、「オープニングイメージ」「テーマの提示」「突破口」「ファン・アンド・ゲームズ」「ミッドポイント」「バッドガイズ・クロージン・イン」「全てを失った状態」「フィナーレ」など。これを意識してストーリーの山と谷を配置すると、構成がしやすくなります。

4. 主人公の“変化の軌道”を最重視する
観客は主人公の成長・変化を見届けるために映画を観ます。最初の姿と最後の姿がまったく同じではドラマが生まれません。試練や仲間の存在を通じて主人公がどう変わっていくのか、その軌跡がしっかりと描かれていれば、物語に説得力と感動が加わります。

5. 不要なものを削る勇気を持つ
先ほどの「パイプの置きすぎ」にも関連しますが、アイデアを詰め込むだけ詰め込んだ脚本は往々にして散漫になりがちです。「マスコミ立ち入り禁止」という制限がかかるくらいの意識で、余計な要素は入れないか、あるいは登場させてもいいが中心ドラマを邪魔しないか、常に見直しましょう。

実在の人気映画を例にした具体的な活用シーン

いくつかの映画を例に、ここでさらに具体的に脚本術の活用方法を示してみます。

  1. 『アナと雪の女王』
    • 魔法は1回だけ:エルサの持つ“氷の魔法”は強大ですが、彼女のコントロール不能な状態がむしろドラマを盛り上げています。もし何度も便利に使いこなせるなら、「魔法が解決してくれる」という期待感が生じ、緊張感が薄れます。
    • 変化の軌道:エルサとアナの姉妹がそれぞれの葛藤を乗り越え、互いの愛情を再認識することで王国に春が戻る。この心理的な変化が大きな感動を生んでいます。
  2. 『ジュラシック・パーク』
    • **氷山、遠すぎ!**ならぬ「恐竜、遠すぎ!」という状況を意図的に避け、序盤から恐竜をチラ見せしつつ中盤で大きく登場させる構成が巧みでした。最初から恐竜大暴れではなく、少しずつ恐竜の存在を感じさせることで緊迫感が高まります。
    • マスコミは立ち入り禁止:外の世界から隔離された島という設定自体が、パニックを拡大させると同時に、登場人物の行動に集中させる仕組みとして作用しています。
  3. 『ラ・ラ・ランド』
    • プールで泳ぐローマ教皇的な意外性のある演出:冒頭の高速道路で突然人々が踊り出すシーンなど、ミュージカル映画だからこそのインパクトで観客を物語世界に引き込みます。
    • 変化の軌道:ふたりの主人公、セブとミアの夢の追いかけ方や、互いの思いがすれ違いながらも最終的に成長していく姿が、観客の心を掴みます。

まとめ:観客の心をつかむために

脚本づくりにおいて、どの要素を重視し、どこを削り、どのような順番で展開するかは本当に難しい問題です。しかし、『Save the Cat』やここで紹介したキーワードを参考にして、自分の書こうとしている物語を一度客観的に俯瞰してみると、見えてくることが多いはずです。

  • まずは主人公を魅力的に描く(“Save the Cat”シーンでつかむ)
  • 設定の意外性やギャップを活かす(“プールで泳ぐローマ教皇”)
  • 世界観のルール(魔法など)は乱用せず、1回だけの特別感を出す
  • 伏線や設定情報を詰め込みすぎない(“パイプの置きすぎ”注意)
  • キャラクターがステレオタイプにならないように背景を掘り下げる(“黒人の獣医”)
  • 大きな事件の発生時期をうまく配分し、観客を飽きさせない(“氷山、遠すぎ!”)
  • キャラクターの変化を物語の核にする(“変化の軌道”)
  • 余計な介入を避けて世界に没頭させる(“マスコミは立ち入り禁止”)

これらを押さえ、ストーリーをビートシートで整理しつつ、キャラクターの内面と変化を細部まで考え抜く。そして、いざ書き始めてみると新たに気づくことがたくさんあるでしょう。それを何度もブラッシュアップしながら完成度を高める作業こそが、脚本づくりの本質と言えます。

脚本は一朝一夕には完成しないものですが、あきらめずに何度も書き直し、試行錯誤を積み重ねていくことで、少しずつ「これはいけるかもしれない」と思える形に近づきます。ぜひ『Save the Cat』やここで紹介したエッセンスを参考にしながら、自分ならではの物語を創り上げてみてください。

おわりに

映画は総合芸術であり、脚本はその基盤を支える重要な要素です。ここに挙げた『Save the Cat』のエッセンスや、象徴的なキーワードに込められた意味を理解しておくことは、必ずや映画づくり全般に役立つはずです。

「プールで泳ぐローマ教皇」という奇妙なイメージに始まり、「魔法は1回だけ」というシンプルなルール、「パイプの置きすぎ」や「氷山、遠すぎ!」という言葉に潜む構成上の注意。そして「黒人の獣医」に見られるステレオタイプへの警告、「変化の軌道」によるキャラクター成長の大切さ。そして「マスコミは立ち入り禁止」に象徴されるように集中したドラマ空間を作り出す意識。どれも作品づくりのポイントを鋭く突くエッセンスばかりです。

最初から完璧な脚本を書ける人はいません。しかし、書き続け、学び続けることで、自分なりの「脚本の型」や「キャラクターの活かし方」が少しずつ身についてきます。『Save the Cat』のように体系的に整理されたノウハウを参考にして、自分の書きたいものと観客が観たいものを結びつける作業を楽しんでください。そこにこそ、脚本を書く醍醐味があるのです。

これから脚本を書く方々が、自分だけの“Save the Cat”シーンを生み出し、観客が心から応援したくなるキャラクターを生み出し、素晴らしい物語を世に送り出してくれることを願っています。

SAVE THE CATの法則

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