【映画】徹底考察『ターミネーター』シリーズの軌跡と「なぜ成功を継続できなかったのか?」

映画『ターミネーター』シリーズが辿ってきた軌跡と、その中で生まれた「なぜ成功を継続できなかったのか」という問題点を多角的に振り返ります。大ヒットを記録した『ターミネーター2』の存在感はとてつもなく大きいですが、そこからの続編が多くの批評家やファンから「期待を大きく下回ってしまった」とみなされる要因は何だったのか。作品の制作体制や映画産業全体の構造、キャスティングやクリエイティブ面の問題など、様々な視点を丹念に洗い出してみることにします。

ひとつ言えるのは、「必ずしも“商業的な数字”だけが失敗を示すものではない」という点です。たとえ一定の興行収入を確保したとしても、ファンや批評家の評価、シリーズとしての一貫性、長期的なブランド価値などを総合的に見れば「結果的に失敗」と言える場合があります。逆に数字的に大コケしていても、その作品に独自の魅力があれば別の評価軸が成立しうる。ターミネーター・シリーズの場合、それらが複雑に絡み合い、特に『ターミネーター2』(以下、T2)のあまりに圧倒的な成功ゆえに後続作が常に“比較の檻”から抜け出せなかったことは否めません。

以下では、大ヒットとされるT2以降の作品――『ターミネーター3』(2003年)、『ターミネーター4(サルベーション)』(2009年)、『ジェニシス』(2015年)、そして『ニュー・フェイト』(2019年)を中心に、「なぜ思うような評価を得られなかったのか」を俯瞰しながら、その背景を掘り下げていきます。加えて、そもそもターミネーターという知的財産(IP)をめぐる権利関係や、映画産業自体が直面した構造的な問題、さらにキャストやスタッフ陣の変遷なども整理してみましょう。そうした考察を踏まえた上で、今後続編を作るとしたらどうすべきかというアドバイスを示すことにします。シリーズ創造に携わったクリエイターたちへのリスペクトを常に念頭に置きつつ、あくまでも建設的な意図で議論を展開します。

ターミネーターというシリーズが抱える根源的なテーマ――「未来を変えることはできるのか?」――と同じように、「映画シリーズの失敗の軌跡は変えられるのか?」という問いに少しでも迫れればと願っています。

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Contents

1. T2までの流れと“奇跡”的成功のインパクト

1-1. 低予算SFが築いた神話

『ターミネーター』(1984年)は、当初は大ヒットを予期されていたわけではありません。低予算のSFホラーに近い位置づけで、シュワルツェネッガーすら大スターというわけでもなかった。ところが、斬新な設定と観客を飽きさせない脚本、ジェームズ・キャメロン監督のビジョンが組み合わさり、一気にカルト的支持を獲得しました。その結果、「低予算でもアイデア次第でここまで世界を席巻できる」というハリウッドの成功モデルのひとつになったのです。

1-2. T2に注がれた膨大なリソース

そこから7年の歳月を経た1991年、当時としては天文学的な製作費を投入し、大作SFアクションとして世に出た『ターミネーター2』。文字通り“すべてがワンランク上”のクオリティを提示し、映像技術、マーケティング、キャラクターの魅力、ストーリーのドラマ性など、あらゆる要素が高水準で融合した“映画史に残る傑作”となりました。

“1作目が十分面白いのに、それをさらに上回って2作目が世界的大ヒット”という奇跡に近い現象は、なかなか他のシリーズでも例が少ない。だからこそファンからの期待値は急上昇し、その後に制作される続編がことごとく“T2と比べられる”という運命を背負うことになります。

1-3. 原作者・監督の支配力とブランド

さらに、『ターミネーター』シリーズはキャメロン監督の強烈な個性と、その成功によって高められたブランドイメージが密接に結びついています。「ターミネーター=キャメロン」「シュワルツェネッガー=殺人マシーン」というわかりやすい図式が確立し、それがファンの潜在意識に深く刻まれました。ビジネス的にも、クリエイティブ面でも、“キャメロンのものでなければターミネーターではない”というほど強力な印象を与えてしまったのです。

2. 失敗の序章:『ターミネーター3』(2003年)の評価

2-1. キャメロン監督不在という“最初の分岐点”

T2の大ヒット後、当然ながら続編の構想はいくつも浮上しましたが、権利売買や監督の意向、制作会社の思惑などが錯綜して、ジェームズ・キャメロン本人は3作目に関わらない道を選んでいます。この時点で、ファンとしては「キャメロン不在のターミネーターに、果たして魅力は残るのか?」という大きな疑念が生まれました。 実際に『ターミネーター3』(以下T3)はジョナサン・モストウ監督のもと制作されましたが、その時点で“キャメロン版”と比較されることはもはや避けられない宿命と言っていいでしょう。

2-2. パワーバランスとトーンの問題

T2が築いた“重厚さ”や“深刻な人類の危機感”とは違う空気を、T3は醸し出しています。シュワルツェネッガーの演じるT-800もどこかコミカルな要素が増し、また敵キャラのT-X(演:クリスタナ・ローケン)はビジュアル的には新鮮でしたが、T-1000のような強烈なインパクトに及ばなかったという意見が多かったのです。脚本も多少コミカル路線を意識したふしがあり、「ターミネーターらしさは残しているが、T2の後継としては物足りない」という声がよく聞かれました。

2-3. 興行成績は悪くないが、ファンの期待値を下回る

T3は全世界興行収入で4億ドルを超え、それ自体は決して失敗と呼べる数字ではありません。しかし、制作費も大きく膨らみ、シリーズの歴史的評価や前作T2の偉大さを踏まえると、ファンの間では「がっかりした」「もうキャメロンのターミネーターとは別物」といった印象が強く残りました。まさに“失敗”と断言できるかどうか、意見が割れる微妙な立ち位置ですが、作品としては“イマイチ”な烙印を押されることが多かったのは事実です。

2-4. 物語のジレンマと“審判の日”の扱い

T3で描かれる“審判の日”は回避できない運命として提示され、最終的には核爆発が起こってしまう展開に終わります。これは「未来を変えられるのか?」というT2の希望的テーマを覆しかねない重大なストーリー上の変更であり、一部ファンからは「T2の意義が台無し」とさえ言われました。ドラマ上の挑戦としては興味深いものの、あまりに希望を断ち切る形になってしまい、ファンにとっては後味の悪さが残った部分でもあります。

3. 『ターミネーター4』:新しい試みと迷走

3-1. 未来戦争を全面に押し出した意欲作

『ターミネーター4(サルベーション)』(2009年)は、これまで断片的にしか描かれてこなかった“スカイネットとの本格的な未来戦争”が舞台となり、ファンにとっては期待感のある題材でした。ジョン・コナー(クリスチャン・ベール)を実際に物語の中心に据え、レジスタンスとして戦う姿を描くことで、従来の“追跡劇”とは異なる戦場型SFアクションに挑戦しています。

3-2. 演出と脚本のチグハグさ

ところが、監督マックGのビジュアルセンスやアクション演出は評価された部分もあった一方、脚本構成の弱さが指摘されることが多かったです。特にジョン・コナーのキャラクター像が固まり切っておらず、周囲の人物との関係性や、なぜ“救世主”とみなされるのかという説得力がやや弱かった。加えて、“マーカス・ライト”という新キャラクター(人間と機械のハイブリッド)が事実上の主役のようになっており、シリーズの軸であるジョン・コナーをかすませてしまったという評価もあります。

3-3. “暗いだけ”になった世界観

未来戦争をメインにすると、必然的に荒廃した世界が延々と描かれることになるのですが、それを活かしきるほどの緻密な脚本があったかというと疑問が残ります。重々しい映像や戦場描写が続く一方で、キャラクターたちが十分に掘り下げられず、単調に感じる部分が少なくありませんでした。そこに加えて、制作サイドの迷いもあったのか、マーケティング面でも「どんな映画か分かりづらい」と言われることがあり、結果的に観客動員にも大きな伸びはなかったのです。

3-4. シリーズ全体の時系列と矛盾点

サルベーションを正史とみなすと、T3までとは設定がどうつながるのか。あるいはT2の希望的要素はどこへ行ったのか――そういった疑問がファンの議論で続出し、シリーズの“時系列”に対する混乱が加速しました。シリーズを重ねるごとに「細かい矛盾が増えていく」という事態は、ターミネーターに限らずよくあることですが、ターミネーターの場合は“タイムトラベル”が物語の核だけに、矛盾を軽視すればするほどファンの反発を招きやすかったのです。

4. 『ジェニシス』(2015年):リブート路線とさらなる混乱

4-1. T1やT2の焼き直しとパラレルワールド

『ジェニシス』では、ターミネーター1作目の舞台を再訪しつつ、新たなタイムラインを創出することでシリーズをリブートしようと試みました。これは大胆なアイデアではあるものの、「さらに複雑な時空の錯綜が生まれる」「ファンが思い入れのある設定やシーンに手を加えてしまう」というリスクがつきまとう手法でした。 実際、本作はT1やT2の名シーンをなぞるようでいて大きく改変しており、それが「オマージュとして楽しめる」という人と、「大事な部分を台無しにされた」という人に真っ二つに分かれます。

4-2. キャスティングの是非とサラ・コナー像

サラ・コナーを演じたエミリア・クラークは海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で有名となり、才能あふれる女優であることは間違いありません。ただし、リンダ・ハミルトンの演じた“タフなサラ・コナー像”とのイメージのギャップが大きく、結局「新しいサラ・コナー」として認められなかった面は否めません。エミリア・クラーク自身も新しい解釈を模索していたようですが、脚本の時点で“これぞサラ・コナーだ”という強烈な存在感を形作る要素が充分とは言えず、混乱を深めました。

4-3. 「老ターミネーター」は魅力か蛇足か

シュワルツェネッガーが演じるターミネーターが年齢を重ねた姿で登場する、という設定自体は、多くのファンが“アリだ”と感じるユニークなアイデアでもありました。が、本編ではそこまで有効活用されているわけでもなく、「シュワルツェネッガーが出てくるなら見に行く」というマーケティング的な側面が強かったように思われます。作品を観た後、「なぜターミネーターが老けるの?」という基本的なツッコミや疑問に対して、十分に納得できる説明があったとは言いがたい面がありました。

4-4. 興行の不振とシリーズへの打撃

『ジェニシス』は全世界興行収入で4億ドルをわずかに上回る程度に留まり、製作費や宣伝費を考えると“負けに近い引き分け”という印象でした。日本では比較的ヒットしたものの、北米市場での反応が芳しくなく、これを機に「もうターミネーターに未来はないのでは?」という声が勢いを増していきました。

5. 『ニュー・フェイト』(2019年):キャメロン再降臨も……

5-1. T2直系を標榜した“最後の切り札”

2019年の『ターミネーター:ニュー・フェイト』(以下ニュー・フェイト)は、ついにジェームズ・キャメロンが製作・原案として復帰し、ファンの間で再び大きな期待が高まりました。しかも公式に“T2の正当な続編”として、T3やサルベーション、ジェニシスの設定はなかったことにするかのように、新たなストーリーを展開するという大胆な方針を打ち出したのです。

5-2. リンダ・ハミルトン復活と“新キャラクター”の衝突

リンダ・ハミルトンがサラ・コナー役で久々に大きくフィーチャーされ、新キャラクターとしてダニー・ラモス(ナタリア・レイエス)や、強化兵士グレース(マッケンジー・デイヴィス)が登場。“女性中心”の物語を組み立てることで、新時代のパワフルなアクションを示そうという意欲が見えました。 しかし、ジョン・コナーをあまりにもあっさり退場させてしまう冒頭の展開などは、古くからのファンの心情を大きく揺るがす結果に。T2であれほど苦労して守ったジョン・コナーの物語的価値が、ここであっけなく否定されたようにも感じられてしまいました。

5-3. 広がるファンの温度差と興行的挫折

ニュー・フェイトは北米での興行収入が1億ドルにも届かず、全世界トータルでも2億6千万ドル程度にとどまり、大きな赤字が出たとみられています。この事態は、キャメロンが関与し、リンダ・ハミルトンまで戻してなお“ファンが戻らない”という決定打になりました。映画そのものの評価は「アクションはまずまず面白い」「リンダ・ハミルトンはやはり存在感がある」など部分的には好評でしたが、シリーズ復活と呼べるほどの盛り上がりには至らず、「ターミネーターの魔力はもう過去のもの」という印象を残してしまいました。

6. シリーズ全体を俯瞰した失敗要因

まとめると、T2以降の諸作が抱える“失敗要因”は大きく分けて以下のように整理できます。

(1) キャメロン監督の有無とブランド力の低下

キャメロン本人が監督しなかったT3、サルベーション、ジェニシス。そしてニュー・フェイトで部分的に復帰はしたものの、当初のような全権限を持つ立場ではなく、どこか中途半端に感じられた側面があります。オリジナル創造主の存在が希薄になるほど、“ターミネーターらしさ”が揺らいでしまったという見方は多いです。

(2) ストーリー上の混乱とタイムライン問題

元々タイムトラベルを扱うシリーズは辻褄合わせが難しく、新作を出すごとに整合性を取るのが困難になる傾向があります。特にターミネーターは“未来を変える”“変えない”というテーマを描きながら、続編が作られるたびに別のアプローチで改変され、ファンが「一体どれが正史なのか」混乱しやすい状況が続きました。

(3) キャラクターの魅力不足と中途半端な刷新

シリーズを牽引してきたのは、T-800(シュワルツェネッガー)、サラ・コナー、そしてジョン・コナーです。しかし、T3以降は新たな主人公を置こうと試みたり、既存キャラクターを急に方向転換したり、あるいは最初から存在を消したりと、揺れ動く設定が続きました。キャラを刷新したいのか、過去作を踏襲したいのか、その狙いが定まらないままに制作されるケースが多かった印象があります。

(4) 興行的な“マンネリ感”とシリーズ疲労

どうしても「追われる者と追う者」の構図がベースとなるターミネーター作品は、観客に既視感を与えがちです。T2で完成されたといってもいいフォーマットを繰り返すだけでは、アクションやVFXの技術がいくら進歩しても、インパクトは下がる一方。一方で大胆な方向転換をすれば“これじゃターミネーターじゃない”と批判されるジレンマもあり、結果的に中途半端な作品に落ち着いてしまったと考えられます。

(5) 映画産業構造の変化とファン層のズレ

1980~90年代に隆盛した“劇場で見る大作アクションSF”というムーブメントは、2000年代以降にヒーロー映画やファンタジー映画が台頭し、配信プラットフォームも普及し、劇場公開の性質自体が大きく変わってきました。ターミネーターは“破滅的な近未来”を描く作品であるため、現実世界の時代背景が大きく変わると、そのテーマが新世代の観客に必ずしも刺さらなくなる側面もあります。

7. 映画産業と制作体制の視点から見る問題点

7-1. 権利売却と制作主体のたらい回し

『ターミネーター』の版権は幾度も売買されており、各社が自分たちの権利を回収するために“新作を作りたがる”という構図がありました。クリエイティブなモチベーションというより、投資リターンを狙う資本の動きが先行しがちになり、結果として“続編を作る必然性”が薄れたまま制作が進んだという見方もあります。

7-2. 制作委員会方式やビッグスタジオの干渉

ハリウッドの大作SFは巨大な予算が動くため、多数の出資者やスタジオ幹部が口を出すことになります。それに伴い、脚本やキャスティング、宣伝方針などがコロコロ変わる事態が起きやすい。特にターミネーターのような有名IPの場合、シリーズのイメージを壊さないように、とか、シュワルツェネッガーをどう扱うか、といった外的要因の影響が大きく、“チャレンジングな新しい試み”が自由にできないケースも考えられます。

7-3. アクション中心映画の量産と競合

1990年代以降、ハリウッドのアクション映画やSF映画の技術水準は飛躍的に上がり、“VFXですごい映像”だけではもう差別化になりません。『マトリックス』以降にスタイリッシュなアクションや映像世界が続々と登場し、MarvelやDCなどコミック原作の大規模フランチャイズも人気を獲得しました。その中でターミネーターのように、80~90年代の象徴だった作品が生き残るには、よほど強いテーマ性やクリエイティブ・ビジョンが必要だったのです。結果的に十分な“強い軸”を再提示できなかったことが失敗の一因となりました。

8. キャスティングとスターの問題

8-1. シュワルツェネッガーという二面性

アーノルド・シュワルツェネッガーが演じるT-800は、ターミネーターというシリーズの顔である一方で、同じ存在が長年続編に出続けると“マンネリ感”が拭えなくなる側面があります。どんなに姿を変えても「またシュワが出てくるんでしょう?」と観客が先読みしてしまい、意外性が失われるわけです。とはいえシュワルツェネッガー抜きで制作すれば「こんなのターミネーターじゃない」と言われる。そこがジレンマとなっていました。

8-2. リンダ・ハミルトン復帰の扱い

ニュー・フェイトでリンダ・ハミルトンを呼び戻したことは、ある種の大きな賭けでした。“再びサラ・コナーを見たい”という声は根強くありましたが、実際に復活したサラ・コナーの物語をどう展開するのか、という点が十分に練られたかというと、議論はあるところです。懐かしさ以上に新鮮な成長やドラマがなければ、かつてのファンを超える広い層にはアピールできない。その辺りのバランスが難しかったのでしょう。

8-3. 役者の世代交代と新ヒーロー不在

サラ・コナーに続くような新しい女性ヒーローを出そうとしたり、ジョン・コナー以外の救世主を描こうとしたり、試み自体はありました。しかし、シリーズを代表するほどのカリスマ性を備えたキャラクターには育ちきらず、結局は「もう一度シュワルツェネッガーとリンダ・ハミルトンに頼るしかない」というループに陥った感があります。シリーズで持続的に“新しい顔”を確立する難しさは、キャスティング面でも大きく影響しました。

9. クリエイティブ視点:脚本・演出上の課題

9-1. “追跡型スリラー”を超えられない

1作目やT2では“機械に追われる恐怖”が骨格でしたが、何度も同じ構造を繰り返すと新鮮味が失われます。かといって、まったく別のジャンルに転換したサルベーションのような試みにも批判が集まりました。つまり“追跡劇の緊張感”と“新しいシチュエーション”を両立させる脚本がなかなか生まれないという問題です。

9-2. テーマの再定義に失敗

T2が投げかけた「運命は変えられるのか」「AI vs 人類」というテーマは、現代においても非常に普遍的で魅力的です。だが続編では、そのテーマをさらに発展させたり、新たな哲学的問いを提示したりするよりも、過去の設定をなぞるだけか、あるいは浅い改変で整合性を崩してしまうパターンが目立ちました。せっかく現代社会でも注目されるAIリスクや監視社会、SNS時代の個人情報の扱いなど、豊富な題材があるのに、それを深掘りするだけの覚悟や企画力を生かせなかったのは大きな痛手です。

9-3. 時代性とのギャップ

1980年代の時代背景と、2020年代の現代は大きく異なります。当時はまだAIやネットワーク技術がSF的に語られていましたが、今や多くの部分が現実化しつつある。となれば、物語が提示する“未来の恐怖”や“テクノロジーの暴走”を、より現代的な角度からアップデートする必要があります。そこに大きくメスを入れられなかったことで、“古臭い近未来観”を引きずったままではないか、という指摘もあるでしょう。

10. 失敗を踏まえて今後どうするか

ここまでの分析を踏まえたうえで、もし今後新たにターミネーター映画を制作するのであれば、次のような観点が極めて重要になると考えられます。すでに多くの手が尽くされ、何度もリブートや続編が試みられてきましたが、そのたびに“失敗”の烙印を押されてしまった理由を直視する必要があります。

(1) キャメロンにこだわらない、新世代のビジョン

ジェームズ・キャメロンは偉大なクリエイターですが、いつまでも彼の名声に頼りきる形では新鮮さが生まれづらい。もしキャメロンが関わるとしても、あくまでも総監修的な立場にとどめ、新世代の才能が大胆なアイデアを打ち出すことを尊重する、そんな体制が求められるかもしれません。

(2) AI・テクノロジーの現代的な再解釈

現代社会ではAIやロボット技術が急速に発展しており、スカイネットのような超巨大人工知能の脅威はよりリアルな問題へと進化しています。それを単に“機械と人間の戦い”に還元するだけではなく、デジタル社会や個人情報の扱いなど、身近なテクノロジーの落とし穴を強調するSFドラマが作れれば、今の観客にも訴求できるはずです。

(3) 新キャラクターの徹底強化

サラ・コナーやT-800、ジョン・コナーが築いたレガシーを尊重しつつ、シリーズの冠を担える新キャラクターを生み出すことが鍵になります。単なる代替や焼き直しではなく、“この人物なら今後10年はシリーズを引っ張れる”と思えるだけの魅力を備えた存在を作り上げなければなりません。

(4) 緻密な脚本と長期的ヴィジョン

単発の大作映画としてではなく、複数作を通して整合性のある物語を描く“ドラマシリーズ的な構成”が検討されてもいいでしょう。映画の時間尺だけでは描ききれない近未来世界やAIの進化プロセスを、丁寧に積み上げていく形をとれば、ファンの好奇心を引きつけやすくなります。もちろん、そのためには製作陣や資金源が長期的視点で動く覚悟が必要です。

11. 失敗の軌跡が示す“シリーズ継続の難しさ”

映画史に残るほどの大成功作があると、その後の作品はどうしても「比較され続ける」という難しさを背負います。『ターミネーター』シリーズの場合、T2という金字塔を越えるどころか、同等レベルの評価を得ることすら至難の業でした。さらに版権移転や監督交代、配給会社の思惑、俳優の年齢、時代背景の変化……そうした数多の要素が積み重なり、結果的にシリーズ全体が評価を落とすことになりました。

しかし、視点を変えれば、これほど長きにわたって“作り続けられてきた”こと自体がターミネーターの持つ潜在的魅力の証明でもあります。機械と人間、未来と過去、運命と選択――こうした普遍的テーマは、いまなお映画ファンやSFファンにとって魅力的です。だからこそ今後も「新作を見たい」という声は少なからず存在し続けるのでしょう。

12. 続編を制作する映画制作者へのアドバイス

シリーズの“失敗”は、ある意味で“挑戦”の証でもあります。下記のポイントを意識すれば、ターミネーターに限らず、多くの映画シリーズが抱える課題に取り組むヒントになるかもしれません。

  1. 長期的な構想と一貫性の重視
     続編を作るなら、短期的な売り上げだけでなく、何作も連なる壮大なドラマとして整合性を取る計画が欠かせません。脚本家や制作陣がコロコロ変わらないように、中核スタッフがヴィジョンを共有できる仕組みを整えることが重要です。

  2. 世界観アップデートの勇気
     80~90年代に生まれた設定をそのまま利用するだけではなく、現代の社会情勢やテクノロジーに即したアップデートを大胆に行うべきです。同時に、従来ファンへの配慮として過去作へのリスペクトを忘れないバランス感覚も必要です。

  3. キャラクターの魅力創出
     “シュワルツェネッガーがいないとダメ”という思考停止に陥らず、新しい才能やキャラクターを育てる気概を持ちましょう。往年のスターをどう使うかより、“新たなスターをどう生み出すか”に注力した方がシリーズの未来は明るくなるはずです。

  4. ファンとの対話を怠らない
     SNSやオンラインコミュニティが発達した現代、ファンは作品が生まれる過程にも関心を寄せています。作品が出来上がってから「違う!」と言われるより、早い段階でファンと対話し、建設的な意見を取り入れる姿勢が重要になるでしょう。

  5. 熱意とビジョンがある監督・脚本家を支える体制作り
     権利問題や出資者の都合だけで動かすのではなく、本当にターミネーターの世界観を愛し、熱意を持つクリエイターを中心に据えることが肝心です。その熱意を最大限に発揮させるために、スタジオやプロデューサーの理解とサポートが欠かせません。

このシリーズを産み落としたジェームズ・キャメロン監督、そして長年ターミネーターを支えてきたキャスト・スタッフの方々には、映画ファンとして心からリスペクトを捧げたいと思います。すでに多くの素晴らしいアイデアと映像表現を生み出してきた彼らがいたからこそ、このシリーズは世界的な知名度を得ました。今後、もし再び新たなターミネーター作品が生まれるのであれば、その精神をしっかりと受け継ぎ、かつ現代社会に響く“新しい衝撃”を提供してほしい。それは、“運命は変えられる”というシリーズ本来のメッセージを体現する道でもあるでしょう。

シリーズの明日は決して消えたわけではありません。どんなに破滅的な未来が見えたとしても、一条の光は残されている――そんなT2以来の希望的観測を信じつつ、これからのクリエイターたちに期待を寄せたいと思います。

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