Contents
- 1.はじめに
- 2.アジア市場における日本映画の現状
- 3.過去の事例1—『君の名は。』から見る文化超越
- 4.過去の事例2—『昼顔』ドラマから映画化による韓国での話題
- 5.過去の事例3—『台湾で爆発的ヒット』のユニークなケース
- 6.日本映画が台湾・韓国でヒットするための基盤
- 7.テーマ選定のポイント—日本では少し話題、しかし台湾・韓国で大ウケ
- 8.韓国市場への展開戦略—リメイクや共同制作を視野に
- 9.台湾市場への展開戦略—映画祭とインディーズファン
- 10.奇想天外な脱線1—“幻の温泉”PR映画を作る?
- 11.キャスティング戦略
- 12.ストーリーテリング—普遍性と文化的独自性の両立
- 13.配信プラットフォームとの連携
- 14.プロモーション戦略—現地言語での情報発信
- 15.奇想天外な脱線2—“映画とUFO”の意外な親和性?
- 16.製作委員会方式のメリット・デメリット
- 17.言語・字幕・吹き替え問題
- 18.ロケハンと撮影現場での工夫
- 19.奇想天外な脱線3—“キノコ博士”が解き明かす禁断の真実
- 20.ブランディングとストーリーの語り方
- 21.日本での話題づくりと海外市場への誘導
- 22.リスクと挑戦
- 23.プロデューサーができる準備
- 24.今後の展望—アジアを超えて世界へ
- 25.まとめ
1.はじめに
日本映画の市場規模は決して小さくありませんが、その魅力を国内で100%理解してもらうのは難しく、また実際に大ヒットを狙う作品は限られているのが現実です。一方、近年のアジア市場、とりわけ台湾や韓国での日本映画の公開状況を見ると、「日本ではそこまで大ヒットではなくとも、台湾や韓国など隣国で驚くほどの興行成績を収める」という事例がいくつか報告されています。こうした現象は偶然ではなく、明確なマーケティング戦略や文化的背景の考慮によって成り立っている部分があります。本記事では、映画プロデューサーの立場から、そのような「日本国内での一定の話題性をベースに、台湾・韓国において大ヒットを狙う映画企画」について、その具体的な戦略や過去の事例、さらに不思議な思考の跳躍も交えながら考えてみたいと思います。
2.アジア市場における日本映画の現状
まずは、台湾や韓国といったアジア市場での日本映画の位置づけを整理してみましょう。日本のコンテンツは、アニメ・漫画やドラマを中心にアジア圏でも高い評価を受け続けてきました。特にアニメ映画は、日本国内以上に海外市場で評価され、興行収入を得るケースが多々あります。スタジオジブリ作品や新海誠監督の作品、細田守監督の作品などは、そのビジュアルや物語性が国境を超え、世界中のファンを獲得している典型例です。
しかし、実写映画に目を向けると、日韓・日台間でのヒット作品は特定のジャンルや特定の監督に偏りがちです。例えば、恋愛青春ものやホラーなどは比較的アジア全体で受け入れられやすい傾向があり、逆に特撮やヤクザもの、コメディは文化的文脈のズレによって苦戦を強いられることが多い印象があります。一方で、特撮作品がマニアの間で熱狂的に支持されているケースもあり、一概に「どのジャンルが海外で当たるか」は実は定義しにくいのも事実です。
3.過去の事例1—『君の名は。』から見る文化超越
新海誠監督の映画『君の名は。』は、日本はもちろんのこと台湾や韓国などアジア各国でも大ヒットを記録しました。作品自体は「入れ替わり」という古典的なテーマをベースにしつつも、田舎町の美しい風景描写やポップカルチャー的な音楽の活用などが海外市場で新鮮に受け取られました。
興味深いのは、日本では社会現象にもなりつつも、一部では「やや青春ファンタジーに寄りすぎている」「リアリティが薄い」という批判もあったという点。しかし台湾や韓国では、そもそも「アニメ映画」というフォーマットだけで一種の特別感を持って受け止められるため、「日本国内でのリアリティや批判」よりも「作品に詰め込まれたエモーショナルな要素」自体が評価される傾向にあったと言えます。
また、『君の名は。』に代表されるように、「ビジュアルの美しさ」「意外性」「ラブストーリー」といった要素は国境を越えやすいと考えられます。特に台湾では、邦画はもともと人気が高い国のひとつですが、とりわけロマンチックな作品やアニメ作品に好意的であるといわれます。一方、韓国も映像文化が非常に発達しており、日本のアニメは若年層を中心に好まれますが、実写映画になると「韓国映画との競合」が発生するため、より明確な差別化要素が求められます。
4.過去の事例2—『昼顔』ドラマから映画化による韓国での話題
フジテレビ系のドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』が映画化され、2017年には『昼顔』として劇場公開されました。日本では当時の不倫ブーム(という言い方が正しいかは別として)も手伝って大きく話題を呼びましたが、韓国でもネットを中心にかなり大きな盛り上がりを見せています。
韓国社会は近年、「愛憎劇」「男女関係のドロドロ」を描く作品がドラマや映画で好まれる傾向があります。『昼顔』のテーマである「夫婦関係の壊れ方」「不倫への好奇のまなざし」「悲恋」は、韓国の視聴者層が求めるものと重なっていたと言えます。結果的に映画版『昼顔』は韓国での公開規模こそ大きくはないものの、SNSを中心にバイラルし、日本ほど派手ではないにせよ、“知る人ぞ知る映画”として浸透。これは「日本で盛り上がったテーマをそのまま持ち込む」のではなく、「韓国がもともと好むテーマと密接に関連するかどうか」が鍵になる、ということを示唆しています。
5.過去の事例3—『台湾で爆発的ヒット』のユニークなケース
日本のバンドが台湾で大人気になるケースも少なくありませんが、映画でもときどき「日本ではそれほど注目されなかったけれど、台湾では大きな支持を得た」というケースがあります。たとえば、日本のインディーズ映画の一部が台湾の映画祭で高評価を受け、その後現地の劇場公開にこぎつけて、マニア層を中心にロングランとなることもあります。
具体的なタイトルを挙げると少しマニアックですが、塚本晋也監督や園子温監督などの作品は、ある種の「カルト的魅力」を持っており、台湾を含むアジア圏で熱狂的に支持される層が存在します。日本では一部の映画ファンしか観ないような作品でも、台湾の映画祭で盛り上がりを見せることで、その後大きな広がりを生む可能性があるのです。これは「日本発のマニアックな映画でも、海外の映画祭や映画ファンのコミュニティで見出されると、一気に火がつく」という現象を如実に表しています。
6.日本映画が台湾・韓国でヒットするための基盤
これまでの事例から、大まかに次のようなヒット要因が考えられます。
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テーマやジャンルがアジア全体で通じるかどうか
青春、恋愛、家族、社会問題など、基本的にアジアの人々が共感しやすいテーマがあると強いです。 -
アニメや特殊なビジュアル表現など、国境を越える視覚的インパクト
日本のアニメはもちろん、実写でも強烈なビジュアルイメージを武器にして世界観を打ち出せると注目を集めやすい。 -
現地の配給会社や映画祭とのパイプ
台湾や韓国の配給会社、映画祭とのパイプがあると、ローカルマーケティングをうまく活用できます。 -
SNSを通じたファンコミュニティ形成
近年はSNSが口コミ拡散の主要ツール。国や言語の壁を越え、ファンが独自に情報を拡散してくれる仕組みを作れるかが重要です。 -
日本国内と海外の温度差を逆手にとる
日本で絶賛される作品が海外でも必ずしもウケるわけではなく、逆に日本で評価が低くても海外で高評価されるケースがある。この温度差を意図的に作り出すことも戦略のひとつになり得ます。
7.テーマ選定のポイント—日本では少し話題、しかし台湾・韓国で大ウケ
映画プロデューサーとして考えるとき、まずはどんなテーマやジャンルを狙うかが最重要になります。ポイントは「日本国内では目新しさがそこまでないが、台湾・韓国では相対的に新鮮に見える」切り口を探すことです。具体的に言えば、日本では既に定着している文化やサブカル要素が、台湾や韓国ではあまり知られていない場合があります。そうしたギャップを狙うのは一つの手でしょう。
たとえば、独特な下町文化や地方自治体がプロモーションしているご当地グルメ、祭りなどは、国内だと「特別すごいもの」という認識が薄い場合もありますが、海外の視点からすると非常にユニークに見えることがあります。こうした地方の文化・風習を恋愛ドラマや青春映画の背景として入れ込むことで、海外からは「日本特有の美しさ・儚さ・温かみ」を感じてもらいやすくなるわけです。
8.韓国市場への展開戦略—リメイクや共同制作を視野に
韓国は映画産業が極めて活発で、韓国映画は国内での観客動員力が非常に高いだけでなく、最近ではオスカー受賞作が出るほど国際的評価を得ています。したがって、日本の映画が韓国市場に進出する場合には、かなり強力な競合が待ち受けています。
そこで一案として考えられるのは、韓国の制作会社や配給会社との共同制作、あるいはリメイク権の売買などを積極的に検討することです。日本でそこそこ話題になった映画を、韓国でリメイクしてさらに大ヒットさせるというパターンは実際に存在します。逆に韓国でヒットした映画やドラマを日本がリメイクし、そこそこのヒットを生むケースもあります。こうした二国間の制作リレーションシップを強化しておくと、自然と「日本公開は小規模でも、韓国公開が大規模になる」シナリオが描きやすくなります。
9.台湾市場への展開戦略—映画祭とインディーズファン
台湾はもともと日本文化を受容しやすい土壌があり、ドラマ・アニメ・音楽など幅広いジャンルで日本のコンテンツが浸透しています。日本で少し人気が出たアイドルが、台湾では予想以上に大きなファンベースを築いていた、という話は珍しくありません。
映画においても、日本の作品は台湾の映画祭で取り上げられると一気に知名度が高まる傾向があります。特に「女性監督の繊細な描写」「地方の独特な風習」「社会問題を扱った硬派なドキュメンタリー」など、台湾の映画祭プログラマーが好む作品ジャンルの中で日本映画がはまると、ローカルメディアに大きく取り上げられます。結果として、台湾のアート系シネマを好む層に強く支持され、ロングラン上映となる可能性が十分にあります。
また、台湾特有のSNSコミュニティ(FacebookやInstagramが日本以上に活発)を通じて情報が瞬く間に共有され、一度火がつくとローカルスターのような扱いを受けるケースも存在します。日本ではそこまで目立たない作品が台湾の映画祭で複数の賞を受賞し、その後現地での公開で高い評価を受ける、といったパターンが生まれれば、「日本発の映画が台湾で大ヒット」への道が開けるのです。
10.奇想天外な脱線1—“幻の温泉”PR映画を作る?
ここで奇想天外な脱線を入れてみましょう。例えば、山奥にひっそりとたたずむ「秘湯」や、地元の伝承が色濃く残る「温泉街」を舞台にした映画を作ったらどうなるでしょうか。日本では温泉というのはごく当たり前の観光資源ですが、海外から見ると「まるで異世界のような場所」として捉えられる場合があります。そこに地元伝説や妖怪伝承、独特のグルメ文化などをからめてファンタジー作品を撮れば、「日本でそこそこ注目されつつ、海外では非常に神秘的でオリエンタルな雰囲気を出せる」のではないかと考えられます。
なぜ急に温泉の話が出てきたかというと、日本映画と温泉は結び付きが意外とありそうでまだあまり活用されていないという印象があるからです。台湾や韓国の若い観光客の間でも日本の温泉旅行は非常に人気があるので、温泉地を舞台にした作品はロケ地巡りなどの誘致効果も期待できるかもしれません。
実際に「映画のロケ地」が人気観光地になるケースは世界各地で見られ、日本映画でも大ヒット後に聖地巡礼のような動きが出ることがあります。もし「日本国内の超マイナー温泉地」を舞台に、ちょっと不思議な恋愛ファンタジー映画を制作し、それが台湾や韓国の若年層にウケたとしたら、同時に観光誘致としても大きく成功する可能性があります。
11.キャスティング戦略
海外でヒットを狙う際には、キャストの知名度が海外にまで浸透しているかどうかも重要です。ただし「日本で人気のアイドルを起用すれば海外でも受ける」という単純なものでもありません。むしろ大切なのは、作品のテーマに合った魅力的な俳優を起用し、現地メディアに向けたプロモーションやインタビュー戦略を明確にすることです。
また、ドラマ『昼顔』の事例を見ても分かるとおり、主演俳優や女優が持つイメージが作品の受け取られ方を左右します。特に韓国では俳優や女優のイメージ戦略が巧みで、その背景にはK-POPや韓流ドラマのスターシステムが大きく貢献しています。日本側としても、作品プロモーションにおいては「海外ファンが関心を抱く俳優のビジュアルや個性」を前面に押し出す工夫が必要です。
12.ストーリーテリング—普遍性と文化的独自性の両立
台湾や韓国でヒットした日本映画を振り返ると、たいてい「普遍性」と「文化的独自性」の両方を兼ね備えています。普遍性とは、恋愛、家族、成長、死生観など、人類共通のテーマです。一方、文化的独自性とは、日本の伝統行事や生活習慣、食文化、風景など、異国情緒を感じさせる要素です。
海外でウケる映画を狙いすぎると、日本的要素を薄めてしまうケースがあり、「どこで撮っても同じような映画」と受け取られて埋没するリスクが生じます。逆に日本的要素を強調しすぎると、海外では理解されにくいかもしれません。しかし本当にヒットする作品は、この両者の微妙なバランスをうまく取り入れているのです。
たとえば『君の名は。』の場合、青春という普遍的テーマに、日本の自然美や神道的な要素(神社、伝統儀式など)をミックスさせて、それが観客にとって「独特だけど共感できる」形になっていました。これこそが海外での大ヒットの鍵だったとも言えます。
13.配信プラットフォームとの連携
近年はNetflixやAmazon Prime Videoなどの配信プラットフォームが全世界に浸透しており、これらを通じて日本映画が海外で一気に注目されるケースがあります。特に台湾や韓国ではNetflixのユーザー数も多く、日本映画がランキング上位に入れば一気にSNS上でバイラルすることも十分あり得ます。
そのため、制作段階から海外配信を視野に入れた契約やマーケティングを検討するのも得策です。特に「日本国内で劇場公開してそこそこ話題になった作品を、数カ月遅れでNetflixなどで海外配信し、一気に火をつける」という流れは、かなり効果的です。日本の興行はそこまで跳ねなくても、海外配信でバズれば追加収益が見込めますし、作品知名度も上昇するでしょう。
14.プロモーション戦略—現地言語での情報発信
台湾や韓国でのプロモーションを考える際には、単純に日本の公式サイトを翻訳するだけでなく、現地のネット文化に合わせたコンテンツ展開が鍵になります。例えば韓国のSNSユーザーは日本以上にYouTubeやInstagramを頻繁に活用しており、コメントやコミュニティでのやりとりも活発です。台湾でもFacebookコミュニティでの拡散が非常に大きな力を持っています。
日本映画のSNSアカウントを現地語でも運用し、舞台裏の映像や俳優のインタビュー、制作日記などを小出しにしていくことで、観客の興味を持続的に引きつけることが可能です。さらに、現地の有名インフルエンサーや映画評論家とのコラボレーションを行い、作品の魅力を語ってもらうのも効果的です。
15.奇想天外な脱線2—“映画とUFO”の意外な親和性?
ここで第二の奇想天外な脱線です。日本で時々話題になるUFO目撃情報やオカルト現象は、海外(特に台湾や韓国)でもマニアックに好まれることがあるという噂があります。実際、UFOや心霊を扱うテレビ番組や映画は、アジア各国で根強い人気ジャンルです。
もし日本の地方都市で「UFOの聖地」を自称しているような場所があれば、そこを舞台にしたSFホラーやミステリ映画を作るのも面白いかもしれません。日本国内ではややマイナーな題材ですが、台湾や韓国のオカルト好き、ホラー映画好きには十分響く可能性があります。「実は日本にはこんな不思議スポットがあるんだ」と海外のファンが反応すれば、旅行や聖地巡礼を通じてさらに話題が拡大していくかもしれません。
16.製作委員会方式のメリット・デメリット
日本でよく採用される製作委員会方式は、一つの作品に対して複数の企業が出資しリスクを分散する仕組みですが、海外展開を念頭に置いた作品づくりにはややデメリットがある場合もあります。配給権や海外二次利用権の取り扱いが複雑になりがちなため、スピード感をもって海外展開を行いにくいのです。
しかし、韓国や台湾で強いパイプを持つ企業が製作委員会に参加していれば、海外での上映や配信の窓口がスムーズになる利点もあります。特に「日本市場だけではあまり利益を見込めないが、台湾や韓国でのヒットを期待している」というような作品の場合、最初から海外配給を積極的に手掛けるパートナーを委員会に呼び込む戦略が合理的でしょう。
17.言語・字幕・吹き替え問題
海外展開において意外と重要なのが、吹き替え版を作るかどうかという点です。韓国では映画を字幕で観る文化が根強く、俳優の生の声を重視する傾向があります。一方、台湾では吹き替えや字幕の両方が一定の需要を持つため、ターゲット層に合わせた柔軟な対応が必要です。
日本映画の魅力を十分に伝えるには、セリフのニュアンスをどこまで現地語に落とし込めるかがカギです。たとえば日本語ならではの表現(丁寧語や敬語、方言など)がどのように翻訳されるかで、作品の印象が大きく変わってしまいます。日本語の持つ微妙なニュアンスを活かしながらも、海外観客に違和感なく伝わるローカライズの品質は作品評価に直結すると言っても過言ではありません。
18.ロケハンと撮影現場での工夫
台湾や韓国での上映を想定するならば、逆にこれらの国との共同撮影やロケを行うアイデアもあります。たとえば、物語の一部を韓国で撮影し、韓国の俳優を起用しつつ日本と韓国を行き来するストーリー構成にするなど、作品自体が国際色豊かになる工夫が可能です。
台湾との共同製作であれば、台湾の人気俳優・女優をゲスト出演させるだけでも現地のファンの注目度は飛躍的に高まります。そうした共同撮影のシーンを事前に現地メディアにリークすることで、SNSでの話題づくりにもつながるでしょう。
日本国内でしか撮影しない場合でも、台湾や韓国のファンが喜ぶようなロケ地を選ぶことが重要です。最近では映画やドラマのロケ地に訪れる海外ファンも少なくありません。富士山や京都の寺社仏閣だけでなく、地方の小さな街並みも独特の魅力を放つため、事前に海外ウケしそうなロケ地をリサーチするのは必須です。
19.奇想天外な脱線3—“キノコ博士”が解き明かす禁断の真実
ここで三度目の脱線ですが、映画のアイデアはどこから生まれるか分かりません。例えば日本各地には多様なキノコ文化があり、地元には「キノコ狩りの名人」や「キノコ博士」と呼ばれる変わり種の人物がいることもあります。こうしたディープな題材は日本では地味に受け取られる可能性がありますが、海外の視点から見ると「なんだか分からないけど面白そう」と好奇心を刺激するかもしれません。
もし日本の山中で発見された未知のキノコをめぐるミステリー映画を作れば、それは「日本で少し話題」になる程度かもしれません。しかし台湾や韓国では「日本人が真面目に不可思議なキノコを追いかけている」という異様さがウケて、バイラルヒットにつながる可能性があります。案外こうした奇抜なアイデアこそ「日本独特の味」を感じさせるものであり、海外でのブレイクにつながるのではないでしょうか。
20.ブランディングとストーリーの語り方
映画プロデューサーとしては、作品そのものだけでなく、作品にまつわるエピソードや裏話も含めた「一連の物語」をどうブランディングするかが勝負どころです。台湾や韓国のファンは特に、作品の背景にあるクリエイターの想いや撮影秘話などを知りたがります。
たとえばメイキング映像の一部をSNSで先行公開して、「このシーンは実はこうやって撮っていました」などの舞台裏を紹介すると、海外ファンからしてみれば日本の映画制作現場を垣間見る貴重な機会となり、興味を持ってもらいやすいです。さらに監督やプロデューサー自身が現地の映画祭やイベントに積極的に足を運び、トークショーやファン交流会を行うことも効果的です。
21.日本での話題づくりと海外市場への誘導
肝心の「日本では少し話題」という部分をどう実現するかも考えてみましょう。あまり大手メディアに一斉に取り上げられてしまうと、一気に全国的な知名度が上がってしまう可能性があります。もちろんそれは喜ばしいことですが、「日本ではそこそこ話題になっている」くらいのバランスを狙うには、限定的なプロモーションやSNSを活用した小規模なバズを狙うほうが効果的です。
具体的には、まず地方都市やミニシアター系を中心に公開して口コミを醸成し、それが徐々に大都市に広がっていくようなスロースタート型の公開方式です。日本では地道に評価を積み上げつつ、海外—特に台湾や韓国では「日本で話題の問題作!」という見出しで大々的にプロモーションを展開するというアプローチが可能です。
「本当に日本で話題なのか?」というツッコミを受けるリスクはありますが、日本でミニシアターを中心に熱狂的に支持されている様子をSNS映えする形で発信すれば、十分に「日本で知る人ぞ知る映画」という空気感が作れるでしょう。
22.リスクと挑戦
日本で少し話題になっても海外で失敗する可能性はもちろんあります。また、台湾や韓国市場を狙いすぎて、日本の観客にとっては違和感のある映画に仕上がるリスクもあります。こうしたバランスは実際に作ってみないと分からない部分が大きく、映画制作には常にリスクが伴います。
しかしながら、情報やSNSが国境を越えて瞬時に拡散される今の時代こそ、「従来の興行収入の仕組みにとらわれずに海外市場を中心に収益を狙う」選択肢が大いに考えられます。クラウドファンディングを活用して海外ファンを巻き込む方法など、新しい資金調達の仕組みも増えています。実験的な取り組みを積極的に行うことで、新たなヒット作や思いがけないブームが生まれる可能性は十分にあるのです。
23.プロデューサーができる準備
実際にプロデューサーが「日本国内で少し話題、台湾・韓国で大ヒット」を狙うなら、まず以下のような準備が必要でしょう。
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マーケット調査
台湾と韓国での興行データを分析し、どんなジャンルやテーマが受けやすいのかを探る。 -
共同制作・配給パートナー探し
信頼できる現地パートナーと組むことで、配給戦略やプロモーションがスムーズに。 -
ローカライズ計画
吹き替えや字幕の質、SNS運用、現地語でのメディア対応などを具体的にプランニングする。 -
日本での公開形態の工夫
あえてミニシアターや映画祭を中心に公開し、コアなファンを育てる戦略を取るか、それとも大手配給と組んである程度の宣伝力を確保するかを検討する。 -
映像以外の展開(クロスメディア戦略)
原作があるならコミカライズ、舞台化、ドラマ化など、映画以外のメディア展開も視野に入れ、海外ファンを複合的に取り込む。
24.今後の展望—アジアを超えて世界へ
台湾や韓国でヒットした作品は、アジア全体での評価を高める足がかりにもなります。中国大陸や東南アジアへの配給も視野に入るかもしれませんし、欧米の映画祭で高評価を得るチャンスにつながる可能性もあります。
日本での評価が必ずしも海外での評価と連動しない時代だからこそ、海外視点で最初から作品を練り上げるアプローチが今後ますます重要になっていくでしょう。もちろん「日本国内での大ヒットを狙いながら、海外でも通用させる」というのが理想ではあります。しかし、資金力や宣伝力が限られているならば、あえてターゲットをアジア近隣諸国に絞ってピンポイントでヒットを目指すのも現実的な戦略です。
25.まとめ
日本で少し話題になる程度の作品が台湾や韓国などで大ヒットするための方策を、映画プロデューサーの視点から考察しました。テーマ選定やキャスティング、現地でのプロモーション戦略、共同制作など、多角的に見るとさまざまなアプローチが存在します。
奇想天外な脱線として「温泉を舞台にした幻想映画」や「UFO・オカルト要素」「キノコ文化の深掘り」などを挙げてみましたが、こうしたユニークな発想こそ海外では強いインパクトを与える可能性があります。日本では地味に扱われる題材でも、海外から見ると魅力的に映るかもしれないからです。
もし今後、具体的に「台湾・韓国で大ヒットを狙う映画」を企画する際には、本記事で紹介した事例や戦略を参考にしていただき、さらに現地パートナーとの連携や精緻なマーケティング調査を組み合わせることで、新たな可能性が開けるのではないでしょうか。日本映画の新しい形として、海外で評価される作品を生み出し、逆輸入的に日本で再度ブームを巻き起こす—そんなヒットの方程式を追求していくことは、映画界においてまだまだ面白い挑戦であると言えるでしょう。