スター・ウォーズ エピソード4『新たなる希望』(以下、『新たなる希望』)は、ジョージ・ルーカス(George Lucas)の独創的なビジョンによって生み出されたSF映画の金字塔といえます。その制作過程は当初から困難の連続でしたが、最終的には大成功を収め、映画史を塗り替えるほどのインパクトを残しました。ここでは、その制作過程をジョーゼフ・キャンベルのヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)になぞらえて見ていきます。ヒーローズ・ジャーニーは、「日常の世界」から「冒険の世界」へ足を踏み入れ、数々の試練を経て、深い学びや宝を得て帰還する物語の普遍的構造として知られています。まさに『新たなる希望』の制作は、この構造を地で行くドラマに満ちた物語でもありました。
Contents
- 第1章:日常の世界(The Ordinary World)
- 第2章:冒険への呼びかけ(The Call to Adventure)
- 第3章:冒険の拒否(Refusal of the Call)
- 第4章:賢者との出会い(Meeting the Mentor)
- 第5章:第一関門の突破(Crossing the Threshold)
- 第6章:試練、仲間、敵(Tests, Allies, Enemies)
- 第7章:もっとも奥深い洞窟への接近(Approach to the Inmost Cave)
- 第8章:試練の時(The Ordeal)
- 第9章:報酬の獲得(Reward)
- 第10章:帰路につく(The Road Back)
- 第11章:復活(Resurrection)
- 第12章:エリクサーを持ち帰る(Return with the Elixir)
- 制作過程とヒーロージャーニー
第1章:日常の世界(The Ordinary World)
ヒーローズ・ジャーニーは、多くの場合、主人公がまだ冒険に身を投じる前の「日常の世界」から始まります。ジョージ・ルーカスが『新たなる希望』に着手する以前、彼の映画界での地位や制作スタイルは、現在広く知れ渡る巨匠の姿とは大きく異なっていました。
1-1. ジョージ・ルーカスの背景
ジョージ・ルーカスは、もともと南カリフォルニア大学(USC)の映画学科で学び、短編映画の制作などを通じて頭角を現していました。彼の出世作とも言える映画に『アメリカン・グラフィティ』(1973年)があり、これは青春映画として大きな成功を収め、アメリカの若者文化を鮮烈に捉えたことで話題を呼びました。しかしながら、SF映画を本格的に作りたいというルーカス自身の夢は、まだ実現されていなかったのです。
1-2. 映画業界の動向とSFジャンルの扱い
1970年代前半のハリウッド映画界では、SFジャンルは決して主流とは言い難いものでした。特殊効果に多大な費用がかかる上、「子ども向け」というイメージも強く、大手スタジオは積極的に投資を行わない傾向にありました。興行的なリスクも大きいと見なされ、SF作品を企画として通すのは並大抵のことではありませんでした。こうした映画界全体の状況が、後にルーカスに数多くの難関をもたらすことになるのです。
第2章:冒険への呼びかけ(The Call to Adventure)
ヒーローズ・ジャーニーにおいては、主人公が非日常の世界へ踏み出すきっかけとなる「呼びかけ」が存在します。『新たなる希望』の制作においても、ルーカスが彼自身の「宇宙を舞台にした冒険物語を作りたい」という強烈な想いを形にしようとしたことが、この呼びかけに相当すると言えるでしょう。
2-1. 『フラッシュ・ゴードン』への憧れ
ルーカスが抱いていたアイデアの源泉の一つとして、1930年代のSF冒険漫画(およびその映像化作品)である『フラッシュ・ゴードン』が挙げられます。ルーカスは当初、『フラッシュ・ゴードン』の映画化権を得ようと試みましたが、権利関係の問題でうまくいきませんでした。そこで、自分自身のオリジナルな宇宙冒険譚を構築しようと決意したのです。
2-2. 最初の脚本『スター・ウォーズ』の骨子
ルーカスは早い段階から、銀河帝国やジェダイ騎士、反乱軍、ライトセーバーといった概念を盛り込んだ草案を練り始めていました。しかしながら初期の脚本は、今の形とは大きく異なり、「銀河戦争に巻き込まれた若者が活躍する」という骨子以外は試行錯誤の連続でした。ディズニーによる買収以前の段階でも、膨大なキャラクター設定やストーリーラインがメモとして残されていたことが知られています。
第3章:冒険の拒否(Refusal of the Call)
ヒーローズ・ジャーニーでは、多くの場合、主人公は始めから「よし、行こう!」とはならず、何らかの障壁や恐れによって冒険を拒否する段階があります。ルーカスも、スタジオからの理解不足や資金的な問題といった、数多くの“拒否”に遭遇せざるを得ませんでした。
3-1. 20世紀フォックス以外からの拒否
ルーカスは脚本の草案を引っ提げて、様々な映画スタジオに企画を持ち込みました。しかし、SF映画はリスクが大きいと考えられ、どのスタジオも首を縦に振りませんでした。当時のルーカスには大きなネームバリューもなく(『アメリカン・グラフィティ』のヒットはあったものの)、まだ才能を確信してもらえる段階ではなかったのです。
3-2. 20世紀フォックスでの予算交渉
唯一、20世紀フォックス(Twentieth Century-Fox)が若干の興味を示しました。しかし、同社内でも本作に出資することについては意見が割れていました。制作費の折衝は難航し、当初は低予算で企画をまとめるよう圧力がかかったのです。このときにルーカスは、自らの報酬を下げる代わりに、続編やマーチャンダイジングに関する権利を保有するという交渉を進めることになりました。後にこの決断が莫大な利益をもたらすことになりますが、当時のルーカスにとっては「自分の夢を形にするための苦渋の選択」でもありました。
第4章:賢者との出会い(Meeting the Mentor)
ヒーローズ・ジャーニーにおいては、主人公が冒険を決断するにあたり、助言を与えたり精神的な支えとなったりする「メンター(師匠)」が重要な役割を果たします。ルーカスにも、脚本のブラッシュアップやビジュアル・コンセプトの確立を助けてくれた“メンター”的存在がいました。
4-1. ラルフ・マクォーリー(Ralph McQuarrie)のコンセプトアート
ラルフ・マクォーリーは、ルーカスにとって極めて重要なビジュアル・デザイナーでした。ルーカスの頭の中のイメージを具体的なイラストに描き起こしたことで、『新たなる希望』のビジュアル・アイデンティティが確立されていきます。スタジオに企画を持ち込む際も、マクォーリーの描いた斬新なコンセプトアートが、大きな説得力を持ちました。実質的に彼の仕事は、ルーカスのイマジネーションを可視化し、作品世界を先取りして形にする「ガイド」だったのです。
4-2. アラン・ラッド・ジュニア(Alan Ladd Jr.)の支援
20世紀フォックスの重役であったアラン・ラッド・ジュニアは、『新たなる希望』の企画に理解を示し、資金面でのサポートを取り付ける上で非常に大きな役割を果たしました。ハリウッドの権力争いが激しい中で、彼が「ルーカスという若き才能は信じるに値する」と太鼓判を押したことが、最終的に企画が動き出す決め手のひとつになったのです。彼はルーカスにとっての“メンター”であり、ヒーローズ・ジャーニーにおける「この人がいるからこそ旅に出られる」存在だったと言えます。
第5章:第一関門の突破(Crossing the Threshold)
ヒーローズ・ジャーニーにおける「threshold(しきい値)」とは、主人公が日常から非日常へ本格的に足を踏み入れる境目です。『新たなる希望』制作においては、実際の撮影が始まり、大掛かりな特殊効果や遠隔地ロケが行われる段階がこれに該当します。
5-1. 撮影開始までの準備
企画成立後、ルーカスは撮影スケジュールと予算を固めるため、大量の下準備に追われました。タトゥイーンの撮影が行われたチュニジアや、ロンドン近郊のエルストリー・スタジオ(Elstree Studios)でのセット構築など、ロケとスタジオ撮影の両面で準備が必要でした。これらの手配を通じて、制作チームは一気に日常のルーティンから映画の世界に没入していきます。
5-2. ILM(インダストリアル・ライト&マジック)の設立
特殊効果を実現するため、ルーカスはインダストリアル・ライト&マジック(Industrial Light & Magic, 略称ILM)という新たなSFX制作会社を設立しました。従来の技術では表現できない宇宙空間の戦闘やビジュアル表現を可能にするため、多くのエンジニアや特殊効果アーティストが集結し、前例のない工夫と試行錯誤を繰り返したのです。ここでも予算不足と技術的制約の壁が立ちはだかりましたが、これを乗り越える中で、後に業界全体に影響を与える数々のイノベーションが生まれました。
第6章:試練、仲間、敵(Tests, Allies, Enemies)
ヒーローが非日常の世界に入って直面するのが、様々な試練や、新たに得る仲間、そして敵の存在です。『新たなる希望』の制作でも、多くのスタッフが“仲間”として協力し、同時に様々な“敵”=問題が立ちはだかりました。
6-1. 撮影現場の混乱
チュニジアでのロケでは、想定外の砂嵐や機材故障などに見舞われ、スケジュールが大幅に遅延しました。エルストリー・スタジオでは、イギリス人スタッフとの文化的違いやコミュニケーションのズレから、撮影が円滑に進まない日々が続きました。加えて、ルーカス自身が完璧主義的な演出を求めたため、キャストやスタッフとの軋轢も生まれたと伝えられます。
6-2. キャスト陣と助け合う姿勢
キャリー・フィッシャー(レイア・オーガナ役)、マーク・ハミル(ルーク・スカイウォーカー役)、ハリソン・フォード(ハン・ソロ役)らメインキャストは、ルーカスのビジョンを最初は完全には理解できなかったと後に語っています。しかし同時に、撮影を進めるうちに「これまでに見たことのない世界を作ろうとしている」という情熱を感じ、チームとして助け合う姿勢が育まれていきました。ルーカスにとっては、彼らキャストが心強い“仲間”であり、作品を一緒に戦い抜く同士だったのです。
6-3. 技術的な壁との戦い
ILMをはじめとする特殊効果チームは、当時としては画期的なモーションコントロール・カメラシステム「Dykstraflex(ダイクストラフレックス)」を開発しました。これは複雑な宇宙船のミニチュア撮影を繰り返し精密に行うための装置で、ジョン・ダイクストラ(John Dykstra)らが中心となって構築したものです。しかし、この技術は実験段階の集合体のようなものであり、トラブルが頻発しました。膨大な時間とリテイクを要する過程は、当時の制作費をさらに圧迫する結果になったのです。
第7章:もっとも奥深い洞窟への接近(Approach to the Inmost Cave)
ヒーローズ・ジャーニーでは、ヒーローが最大の困難や試練を目の前にする「最奥の洞窟」へ近づくタイミングがあります。『新たなる希望』の制作においては、予算超過や時間的制約に加え、スタジオの不信感が高まった段階がこれに相当すると言えるかもしれません。
7-1. スタジオからの圧力
度重なる撮影延期と予算オーバーによって、20世紀フォックス内部でもプロジェクト続行に対する疑問の声が大きくなっていきました。撮影現場からは連日のように困難な報告が上がり、さらにルーカスは監督としても自律神経を痛めるほどのストレスに晒されていました。映画公開前の段階では、この作品が当たるかどうかについて、多くの関係者は悲観的だったと言います。
7-2. ポストプロダクションの過酷な道のり
撮影を終えた後、さらに厳しい工程が待ち受けていました。カットの編集、VFX(ビジュアル・エフェクツ)の仕上げ、音響効果や音楽の作成など、映像と音を統合していく作業が山ほど残っていたからです。中でも特殊効果シーンは想定よりも大幅に時間を要し、当初の公開スケジュールに間に合わせるためにスタッフは昼夜を問わず作業を続けることになりました。これがまさに「もっとも奥深い洞窟」に近づいた感覚をもたらし、完成にこぎつけられないのではないかという不安を関係者たちに抱かせたのです。
第8章:試練の時(The Ordeal)
ヒーローズ・ジャーニーの中核部分として、「最大の試練」が訪れます。これを乗り越えることでヒーローは飛躍的に成長し、物語はクライマックスへ向かいます。『新たなる希望』の制作においての「最大の試練」は、おそらく映画の完成を目前にしてなお、周囲の期待値が低かったことや、技術面での問題が最終段階まで解決しなかったことにあるでしょう。
8-1. テスト試写会の反応と編集の大幅修正
最初期の試写会(ラフカット段階)では、観客からもスタッフからもあまり好意的な反応が得られなかったとされます。ルーカスが自ら編集を大幅に見直し、モンテ・ヘルマンやマーシア・ルーカス(ジョージ・ルーカスの当時の妻であり優秀な編集者でもあった)などの助力を得て、テンポを改善し、ドラマを強調する編集を行いました。結果的にはテンポの良いスペースオペラとして仕上がったのですが、この段階での編集作業はまさに「生死を分ける戦い」のような重大局面だったと言えます。
8-2. ジョン・ウィリアムズ(John Williams)の音楽
また、音楽にジョン・ウィリアムズを起用した判断は、作品の成功を決定づける重要要素でした。録音スタジオでのオーケストラ演奏を初めて聞いた際、ルーカスは「この音楽によって作品の世界観が一気に広がった」と確信を得たと語っています。ウィリアムズの壮大で印象的なスコアは、本作の魅力を何倍にも引き上げ、映画の“魂”とも言える要素になりました。このタイミングで音楽が完成したことも、「最大の試練」を乗り越える力の一助となったと言えるでしょう。
第9章:報酬の獲得(Reward)
ヒーローが困難を克服した後、物語の中では報酬を得る段階がやってきます。『新たなる希望』では、完成版のフィルムがようやくスタジオに届けられ、公開へと向かう段階がこの「報酬」に該当するでしょう。
9-1. 予想外の大ヒット
1977年5月25日、本作は全米で公開されました。興行初日はわずか32館という限られた規模でしたが、映画館には長蛇の列ができ、口コミで評判が爆発的に広まっていきました。スタジオ幹部でさえ想定していなかった大ヒットとなり、公開当時から社会現象ともいえる盛り上がりを見せたのです。これはルーカスにとって長きにわたる“試練”を乗り越えた先に得られた最大の“報酬”でした。
9-2. キャスト・スタッフへの恩恵
キャストやスタッフたちも、世界的な注目を浴び、一躍スターの仲間入りを果たすことになりました。ハリソン・フォードは本作の成功をきっかけに多くの映画で主役級の役を得るようになり、マーク・ハミルやキャリー・フィッシャーも人気を博しました。特殊効果チームのILMは、その後も数々のハリウッド大作を手掛けるSFXのトップ企業へと成長していきます。
第10章:帰路につく(The Road Back)
ヒーローズ・ジャーニーでは、報酬を得たヒーローが再び日常の世界へ戻る道のりが描かれます。『新たなる希望』の場合、その“帰路”とは「次回作への準備」や、ルーカス自身が手にした財産を基に新たな展望を切り開いていく過程とも言えます。
10-1. 続編への布石とビジネスモデルの確立
『新たなる希望』の大成功を受け、ルーカスはただちに続編を構想し始めます。20世紀フォックスとの契約で、彼が保持していたマーチャンダイジングやスピンオフの権利は驚くほどの利益をもたらしました。フィギュアや玩具、書籍など、多方面にわたる商品化による収益は、当時の映画ビジネスの常識を覆す規模だったのです。この時点でルーカスは、映画制作と関連商品によるトータルなエンターテインメント事業を見据え、新たなスタンダードを確立しようとしていました。
10-2. スタッフの再集結
続編(後の『帝国の逆襲』)の制作にあたり、同じスタッフをできるだけ再集結させたいというのがルーカスの意向でした。ただし本編の監督はアーヴィン・カーシュナー(Irvin Kershner)に委ね、ルーカス自身は総指揮や脚本面での監修に専念する形をとることになります。ここから、ルーカスは映画製作という“冒険”に留まらず、大規模なプロデューサー的視点を手にして新たなフェーズへと進んでいきます。
第11章:復活(Resurrection)
物語終盤でヒーローが“よみがえり”を果たし、新たな力や悟りを得る段階をヒーローズ・ジャーニーでは「復活(Resurrection)」と呼びます。『新たなる希望』の制作後、ルーカス自身が映画監督の枠を超えてビジネスや技術革新の中心人物へと“生まれ変わった”とも言えるでしょう。
11-1. ルーカスの変貌
『新たなる希望』の大ヒットによって経済的自由を手にしたルーカスは、映画の権利管理やグッズ販売を統括するルーカスフィルム(Lucasfilm Ltd.)をさらに拡充し、スカイウォーカー・ランチを建設して創作活動の拠点としました。これは彼にとって、作品作りとプライベートを切り離さない「理想の環境」を作り上げる試みでもありました。またILMやスカイウォーカー・サウンドなど、後に世界的な評価を得る技術部門を擁する組織を確立することで、ハリウッドの制作システムに大きな影響を与えています。
11-2. SF映画の地位向上
『新たなる希望』の成功は、SF映画のジャンル自体にも新しい地平をもたらしました。大作SF映画が一般層にも受け入れられ、高額な予算を投じられる可能性が実証されたのです。これにより、後の『エイリアン』シリーズや『E.T.』など、さまざまなSF系作品が生まれる下地が作られました。まさに映画界においてSFが“復活”し、主要ジャンルとして台頭していく契機となったのです。
第12章:エリクサーを持ち帰る(Return with the Elixir)
ヒーローズ・ジャーニーの最終段階では、ヒーローが得た知恵や宝物(エリクサー)を持ち帰り、元の世界に還元していく描写がなされます。『新たなる希望』の場合、それは映画産業のあり方や文化への多大な影響という形で示されました。
12-1. 映画ビジネスへの変革
ルーカスが持ち帰った“エリクサー”とは、映画と関連グッズの一体運営、特殊効果技術への投資、制作者が主体的にプロジェクトをコントロールできる仕組みなど、多岐にわたります。これらのノウハウは後の映画製作者やスタジオにも大きなインスピレーションを与え、現在のハリウッドビジネスモデルの一端を築くことになりました。
12-2. 作品世界の拡張
さらに、『新たなる希望』という1作目を足がかりに、『帝国の逆襲』『ジェダイの帰還』へと連なるオリジナル・トリロジーが完成し、後にプリクエル・トリロジーやシークエル・トリロジー、スピンオフ作品、アニメシリーズ、小説やコミックなど、多岐にわたる拡張宇宙(エクスパンデッド・ユニバース)が築き上げられていきます。これは映画という枠組みを超えた“エリクサー”の還元と言えるでしょう。
制作過程とヒーロージャーニー
ここまで、ジョージ・ルーカスが『新たなる希望』を世に送り出すまでの軌跡を、ヒーローズ・ジャーニーの12ステップに当てはめて整理しました。改めて振り返ると、その制作過程は以下のように集約されます。
- 日常の世界(Ordinary World)
- まだSFが主流ではない映画業界で、ルーカスは『アメリカン・グラフィティ』の成功を背景に、新しい物語への構想を練っていた。
- 冒険への呼びかけ(Call to Adventure)
- 『フラッシュ・ゴードン』に触発され、自分自身の宇宙冒険譚を作りたいという強い思いが芽生えた。
- 冒険の拒否(Refusal of the Call)
- スタジオからはSF企画に対する理解が乏しく、多くの拒否を受けたが、諦めずに交渉を続けた。
- 賢者との出会い(Meeting the Mentor)
- ラルフ・マクォーリーのコンセプトアートやアラン・ラッド・ジュニアの支援が、制作実現への道を開いた。
- 第一関門の突破(Crossing the Threshold)
- チュニジアやエルストリー・スタジオでの撮影開始、ILMの設立により、本格的な映画制作の“非日常”が始まった。
- 試練、仲間、敵(Tests, Allies, Enemies)
- キャストやスタッフが仲間となる一方、予算超過や現場のトラブルという“敵”が次々と立ちふさがった。
- もっとも奥深い洞窟への接近(Approach to the Inmost Cave)
- スタジオの不信やポストプロダクションでの時間・予算不足により、制作中止の危機すら漂った。
- 試練の時(The Ordeal)
- テスト試写での不評や編集の困難を乗り越え、ジョン・ウィリアムズの音楽の力も得て作品を完成させるに至った。
- 報酬の獲得(Reward)
- 公開後の爆発的ヒットによって、ルーカスやキャストたちは一躍スターダムにのし上がった。
- 帰路につく(The Road Back)
- 成功を礎に続編の制作やビジネスモデルを確立し、ルーカスは次なるステップへと進んだ。
- 復活(Resurrection)
- ルーカスフィルムやILMを拡充し、ルーカスは単なる映画監督の枠を超えた影響力を持つ存在へと変貌した。
- エリクサーを持ち帰る(Return with the Elixir)
- 映画産業のビジネスモデルを刷新し、SFというジャンルをメジャーに押し上げるなど、多くの“恩恵”を世界にもたらした。
このように、『新たなる希望』の制作過程は、ヒーローズ・ジャーニーのステップをほぼ網羅するかのようなドラマティックな物語でした。ジョージ・ルーカスをはじめとする制作陣やキャストたちは、未知なる冒険への不安や試練を克服し、最終的に映画史に燦然と輝く成功を手にしました。そして、それは映画そのものの中で描かれるルーク・スカイウォーカーやハン・ソロの冒険に重なる物語でもあります。
『新たなる希望』が提示したスペースオペラと冒険活劇の融合は、SF映画の可能性を大きく広げました。当時は不可能とされていた映像表現を次々と実現し、シリーズを通じて我々はジェダイの精神世界や銀河系の多様な文化を体験することになりました。その原点が、ジョージ・ルーカスの“冒険”と重ね合わさり、ヒーローズ・ジャーニーという普遍的な構造に乗っていたと考えると、この作品が世界中の人々に愛され続ける理由もまた納得できるのではないでしょうか。