【映画】映画『E.T.』(1982)における「ヒーローズ・ジャーニー」構造と登場人物の立ち位置・関係性

映画『E.T.』(1982)における「ヒーローズ・ジャーニー」構造と登場人物の立ち位置・関係性を総合的に分析し、物語作りの参考になるよう徹底的に掘り下げます。本稿は特に「各キャラクターが物語のどのフェーズに貢献しているのか」「主人公エリオットがいかに周囲のキャラクターと相互作用しながら成長していくのか」などに注目し、“神話的構造”と“現代的な子供視点のドラマ”がどのように融合しているかを詳細に論じます。

本作は一見、アメリカ郊外の日常生活が舞台となる“子供の冒険物語”に思えますが、ジョセフ・キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」理論で言及される様々な要素──例えば「冒険への招待」「試練の数々」「仲間や導き手の存在」「最大の危機と再生」「帰還」──をしっかりと内包しています。ここでは、ヒーローズ・ジャーニーを各段階に分け、その中に『E.T.』の主要登場人物がどのように位置づけられ、主人公エリオットをどのように“旅”へいざなっているのかを見ていきましょう。

E.T.

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Contents

1. 日常世界:エリオットとその家族の姿

1-1. エリオットの家庭環境:欠けた家族のかたち

  • エリオット
    本作の主人公。まだ幼さが残る少年でありながら、両親の離婚(父の不在)がもたらす孤独感を抱えています。これが物語の冒頭で示される“日常世界”の大きな特徴であり、エリオットが“満ち足りない何か”を欲している要因でもあります。ヒーローズ・ジャーニーにおける「何の問題もないように見えるが、主人公本人は満たされない不安や孤独を抱えている状態」を体現しています。
  • エリオットの母(メアリー)
    父親が去ってしまった後、家を支えるシングルマザー。仕事や家事に追われ、エリオットの孤独や寂しさを十分にフォローできていない部分があり、物語序盤では“背景”としての存在感が強い。ヒーローズ・ジャーニーにおける「日常世界の管理者」としての機能を果たす一方、主人公が抱える問題を根本的に解決する力は持っていません。
  • マイケル(エリオットの兄)
    ティーンエイジャーに差しかかる年齢で、弟のエリオットに対しては時に素っ気ない態度を見せつつ、物語が進むにつれ“仲間”や“保護者的な兄”としての役割を担います。ヒーローズ・ジャーニーでは「冒険への入り口手前で、主人公とともに日常を共有している人物」のポジションにあるといえます。
  • ガーティ(エリオットの妹)
    幼いながらも好奇心旺盛で、エリオットが隠し持つ秘密(=E.T.の存在)にいち早く興味を示し、物語に柔らかい空気を与えるキャラクター。ヒーローズ・ジャーニー的に見ても、主人公の周辺にいる“純粋無垢なキャラクター”が冒険に意外な貢献をする例は多く、ガーティはまさにそうした要素を担っています。

分析ポイント

  • 主人公エリオットは“欠けた家庭”にいる孤独な少年。そこには彼を内面的に“空虚”にする大きな要因があり、「冒険の必要性」をうかがわせる端緒にもなっています。
  • 家族は必ずしも“完全なサポート”を与えるわけではなく、結果としてエリオットの孤独が強調されることで、後に登場するE.T.との出会いがよりエモーショナルに映える下地が作られています。

2. 冒険への招待:E.T.との出会い

2-1. 異質なる存在“E.T.”の出現

ヒーローズ・ジャーニーにおける「冒険への招待(Call to Adventure)」は、主人公にとって未知の力や世界と初めて接触する段階に当たります。『E.T.』の場合、それは文字通り“異星人の存在”という強烈な未知との遭遇によってもたらされます。

  • E.T.
    本作のもう一人の主役ともいえる異星人。迷子のような状態で地球に取り残され、人間から見ると小柄で愛らしい姿を持ちながらも、地球外の超常的な能力をほのかに示します。E.T.はヒーローズ・ジャーニーにおいて「魔法のアイテム」や「賢者」の要素を部分的に兼ね備えており、かつ「守るべき存在」ともなっている点で特殊です。

2-2. 拒否から受容へ:エリオットの心理変化

多くの物語で「冒険の呼びかけ」があっても、主人公は最初、戸惑いや恐怖、もしくは自分には関係ないと思い、拒否することがあります(“拒否の段階”)。エリオットの場合、E.T.に初めて出会う場面でも、怖さを感じながらも興味や好奇心が勝るというやや特異な反応を示します。恐れというより、「ようやく孤独を埋めてくれる相手を見つけた」という受容的態度が強調されるのです。

  • エリオットの心情
    物語開始時点で満たされないものを抱えているエリオットは、むしろE.T.を“拒否”するより先に、ここで「ついに自分が必要としていた“何か”に出会った」という直感を得ます。これは従来のヒーローズ・ジャーニーの形式的な“拒否”とは異なる進行であり、『E.T.』が特に子供の純粋さを強調する作品だからこそ見られる構成です。

分析ポイント

  • “招待”がきたときに主人公がどう反応するかは物語のトーンを決める重要なポイントです。エリオットは積極的に招待を受け入れることで、一気にドラマが加速します。
  • 同時に、E.T.側も「置き去りにされた存在」であり、地球人の子供を頼りにするという形で、両者の相互依存が生まれる構造になっています。

3. 師や仲間との出会い:協力者と対立者

3-1. 子供たちの“チーム”としての機能

ヒーローズ・ジャーニーでは、多くの場合、主人公を導く“師”(メンター)が登場します。しかし『E.T.』では、いわゆる“長老”や“導師”という存在は見当たりません。その代わり、エリオットを支えるのは兄のマイケルと妹のガーティ、そして限られた友人たちです。ここでは、子供同士が互いに知恵を出し合い、E.T.を守ろうと行動することが“師の役割”を補完する働きをしています。

  • マイケル(兄)
    当初は弟をからかったり半信半疑だったりするが、E.T.の存在を知るにつれて責任感を発揮するように変化。いわば「戦士型サポーター」として、エリオットの隣を走りつつも、子供たちのまとめ役を果たします。
  • ガーティ(妹)
    純真無垢で恐れをあまり感じず、“母性”的な優しさでE.T.を気遣うキャラクター。メンタル面でエリオットを励ますだけでなく、E.T.に言葉を教えたり服を着せたりすることで、心身両面の“サポート”を担います。

比較:一般的なヒーローズ・ジャーニーでのメンター像

  • 従来の冒険譚では、魔法使いや長老、あるいは冒険経験豊富な戦士など、主人公を指導し導くメンターが存在することが多いです。
  • 『E.T.』においては、メンターとしての明確な大人がほとんど登場しません。むしろ子供同士で手探りに事態を解決しようとする点が大きな特色となっています。
  • その結果、エリオット自身の自主性や成長の度合いが際立ち、視聴者は「無邪気な子供が未知なる存在を守り抜く」という“子供ならではのヒロイズム”を強く感じるわけです。

3-2. 対立者(大人たち)の存在

ヒーローズ・ジャーニーにはしばしば「守旧的勢力」や「敵対者」が主人公を妨害する役割で登場します。『E.T.』では、直接的に悪意を持ってエリオットを攻撃するヴィランは存在しないものの、政府の研究者や科学者たちが“E.T.を捕らえて解剖・研究するかもしれない脅威”として描かれます。

  • 政府のエージェント(“キー”の男)
    物語後半まで顔が明確に映されず、キーをジャラジャラ鳴らすシンボル的な演出で“何かを探している大人たち”としての不気味さを強調。正確には“敵”というより“科学的好奇心を優先する大人たち”ですが、エリオットたち子供の目には“敵対的存在”に見えます。これはヒーローズ・ジャーニーで言うところの「試練を与える存在」に該当し、主人公に危機をもたらす重要な役割を果たします。

分析ポイント

  • 対立者が必ずしも“悪”である必要はない。『E.T.』では大人たちは公的な使命感や科学的探求心からE.T.を追っているだけで、悪意そのものは薄い。しかし、主人公やE.T.にとっては脅威となる。
  • こうした曖昧な悪役像は物語に深みを与えます。ヒーローズ・ジャーニーの構造上、“主人公に乗り越えなければならない障壁”が鮮明化するのが重要。『E.T.』では大人=システムという図式を提示し、子供目線での対立構造を作り上げました。

4. 試練の数々:日常と非日常の混在

4-1. 秘密を守る困難

エリオットとその兄妹はE.T.を人目から隠さなければなりません。ヒーローズ・ジャーニーで言う「試練の始まり」は、まずこの“小さな試練”から始まります。学校をサボってE.T.を世話する、家の中でE.T.を見つからないように工夫するなど、コミカルなエピソードがある一方で、エリオットの精神的負担も徐々に増大していきます。

  • エリオットとE.T.の感情リンク
    物語中盤で強調されるのが、エリオットとE.T.との間に生じる“テレパシー的な繋がり”です。E.T.が酒を飲めばエリオットも酔っぱらう、テレビを観ているとエリオットがそのシーンをなぞるなど、離れたところでも感情や身体感覚がシンクロする描写があり、これは後の大きな試練へつながる伏線にもなります。

4-2. 大きな試練への足音

ヒーローズ・ジャーニーでは、小さな試練や障害を乗り越えた後に、より大きな試練が訪れます。『E.T.』では、やがて政府の研究者たちの捜査網が狭まり、エリオットの家にまで踏み込んできてしまう段階がこれに相当します。大人たちが家の中を科学的機材で埋め尽くし、無菌室のような環境にしてE.T.を検査する場面は、まさに「日常が非日常に変わる」象徴的シーンです。

  • エリオットの動揺
    大人の侵入によってエリオットは“自分の仲間(E.T.)を守れなかった”と痛切に感じ、同時にE.T.の身体が弱っていくという緊急事態に直面します。ここに至って、エリオットは自分の力の限界を思い知り、ヒーローズ・ジャーニーにおける“最大の危機”へとつながっていくわけです。

分析ポイント

  • 試練は徐々にエスカレートし、最初は子供が工夫すれば対処できる範囲の“小試練”であったものが、やがて主人公が自力でなんとかできない“大きな試練”へと展開していくのがセオリーです。
  • 『E.T.』では、物語の前半はコメディ的なやり取りでテンポ良く進みながら、中盤から後半にかけて一気にシリアスな状況が訪れる。この落差がドラマチックな効果を高めています。

5. 最も危険な場所への接近:E.T.の命の危機

5-1. インキュベーション・フェーズ

ヒーローズ・ジャーニーの中で、主人公が“異世界”や“最も危険な場所”に踏み込むフェーズがあります。『E.T.』の場合、E.T.が政府研究者によって隔離される医療/研究空間が、その象徴的な“アンダーワールド”として機能します。エリオットはそこに強制的に引き込まれ、自分にとって最も大切な友だちであるE.T.が衰弱しきっていく様を間近で目撃し、内面の苦しみが極限に達します。

  • 衰弱するE.T.とリンクするエリオット
    E.T.が地球で生きるためのエネルギーを失いつつあるとき、エリオットも精神的に追い詰められ、半ば生命力を奪われるような状態に陥ります。ここで強調されるのは「二人が一体化している」というテーマであり、それは同時に「主人公が自分の弱点をさらけ出し、魂を震わせるような局面」に重なります。

5-2. 大人との和解の兆し

ヒーローズ・ジャーニーにおいては、“危機を共有する中で得られる新たな協力者”が現れ、主人公が自身を取り巻く世界を広い視点で捉え直す機会となることがあります。『E.T.』では“キー”の男こと政府エージェントがエリオットに対してある程度の理解を示し、E.T.の存在を大切にしようとする面を見せ始めます。これにより、大人=完全な敵ではなく、状況次第では“協力者”になり得る側面が示唆されます。

分析ポイント

  • クライマックス手前で主人公は最大の苦難に直面し、同時に意外なところから援助がやってくる。このダイナミズムが観客の感情を大きく揺さぶるポイントです。
  • 『E.T.』は子供向けファンタジーでもあるため、必ずしも人間同士の完全な対立構造にしないことで、物語のラストに向けた“希望”をつなぐ設計がされています。

6. 最大の試練:死と再生

6-1. E.T.の“死”

映画の中でもっとも悲劇的かつ衝撃的な場面は、E.T.が正式に“死亡”と判定されてしまうシーンでしょう。ヒーローズ・ジャーニーにおいては、主人公が“象徴的死”を迎えるか、あるいは身近な存在の死によって精神的な変容を迫られることが多々あります。『E.T.』ではその後者にあたり、“主人公が守ろうとしていた存在の死”が、エリオットにとって究極の絶望をもたらすわけです。

  • エリオットの感情の爆発
    「自分がE.T.を救えなかった」という罪悪感と喪失感により、エリオットは取り乱します。多くのヒーローズ・ジャーニーで言われる「暗い夜の時代(Dark Night of the Soul)」に通じるシーンであり、この段階で主人公は“もう勝ち目はない”“乗り越えられない”と思うような極限状況に陥るのです。

6-2. 奇跡の復活

ところがE.T.は、実は完全に死んだわけではなく、宇宙船の信号を受けて蘇生することになります。これはヒーローズ・ジャーニーの「再生(Resurrection)」段階に相当し、“死からの復活”という神話的モチーフがストレートに活用されています。

  • エリオットとの再会と喜び
    E.T.が生き返ることで、エリオットは一気に“完全な希望”を取り戻します。これは主人公が“一度死を経験したあとに新たな覚醒を得る”という象徴的な体験であり、エリオット自身の成長物語としても非常に重要な転換点となります。

分析ポイント

  • “死と再生”は神話や文学で普遍的に用いられるパターンであり、観客や読者に強烈なカタルシスをもたらす要因となります。『E.T.』の蘇生シーンは、子供向け物語の枠を超えた感動を呼び起こすカギとなっています。
  • E.T.の死があるからこそ、その後の脱出・帰還のシークエンスが「奇跡と冒険の総仕上げ」として、作品全体をエモーショナルに締めくくる構造になっているわけです。

7. 帰還:E.T.を“家”に返す戦い

7-1. 自転車での逃亡劇

復活したE.T.を、再び政府の研究者たちから守り抜き、宇宙船の着陸地点へ連れて行く──この行為は、ヒーローズ・ジャーニーにおける「帰還(Return)」と「エリクサー(真の宝)」の獲得を同時に狙うフェーズにあたります。エリオットたち子供は、最後の大冒険として自転車で町を疾走し、警察や研究者からの追跡をかわしながらE.T.を送り届けようと奮闘します。

  • 自転車で空を飛ぶシーン
    映画の象徴的な名場面であり、ファンタジーの絶頂とも言える演出です。ヒーローズ・ジャーニーでしばしば用いられる「奇跡的な助力」や「魔法の飛翔」がこの場面に重なり、徹底的なカタルシスを生み出します。

7-2. エリオット自身の“帰還”とは

エリオットにとって“帰還”は、単にE.T.を宇宙船に返すだけではなく、“自分自身の家族や日常世界に戻る”ことを意味します。しかしそこには、もう一人の自分とも言えるE.T.との別れが伴うのです。ヒーローズ・ジャーニーの総決算として、主人公は何かを失い、何かを得て帰ってきますが、ここではエリオットが“孤独を乗り越えた心の強さ”や“家族と絆を改めて確かめ合う気持ち”を得て帰る構造になっています。

  • E.T.との別れのシーン
    物語全体のクライマックスであり、エリオットとE.T.が指を合わせて言葉少なに別れを告げる場面は、“死と再生”の先にある“別離”がもたらす切なさを強烈に印象付けます。これはヒーローズ・ジャーニーの“宝を持ち帰る”というよりは、“主人公の内面に宝が宿る”という形での回収にあたります。

分析ポイント

  • 帰還フェーズでは主人公が“生まれ変わった自分”を社会や家族のもとに持ち帰ることが定石。エリオットもE.T.との別れを乗り越えることで精神的に大きく成長し、同時に母や兄妹とも本当の意味で心を通わせるようになります。
  • “家に帰る”というモチーフが、E.T.にとってもエリオットにとっても象徴的な意味を持っており、二重の“帰還”が感動を深めるポイントになっています。

8. 登場人物の機能分析:ヒーローズ・ジャーニーにどう組み込むか

ここまで段階ごとに見てきたように、『E.T.』のキャラクターたちは神話的構造の各ピースを非常に巧みに分担しています。以下では、それを簡潔にまとめつつ、物語作りの視点でどのように応用できるかを示します。

8-1. エリオット:ヒーロー(主人公)

  • 特徴
    • 欠落(父親の不在、満たされない心)を抱えている。
    • 純粋な子供の視点で未知との遭遇を受け入れる“素直さ”が強み。
    • E.T.との精神的リンクにより、物語後半では身体的・精神的試練を強く体感する。
    • クライマックスでE.T.と別れ、精神的に大きく成長した姿で日常へ戻る。
  • 物語作りへの示唆
    主人公に“明確な欠落”を設定しておくと、未知の存在との出会いが物語上の強い動機づけになる。主人公が同時に“内面的問題(孤独)”と“外的問題(E.T.を守る)”を抱えることで、ドラマが多層的に展開する。

8-2. E.T.:依存相手・保護対象・魔法的存在

  • 特徴
    • 実はヒロインやサブヒーローに近い役割も担う。
    • “守るべき存在”であると同時に、“超常的な力”を提供できる(空を飛ばす、心をリンクさせる)。
    • 子供が抱える“孤独や優しさ”を映し出す鏡でもある。
  • 物語作りへの示唆
    ファンタジー要素やSF的ガジェットとして“未知なる存在”が登場するとき、その存在がただのマスコットにとどまらず、“主人公の心境変化を促すトリガー”として機能するとドラマに厚みが出る。
    E.T.のように主人公の内面と深く結びつけることで、キャラクターの死や別れが大きなクライマックスとなり得る。

8-3. マイケル、ガーティ:仲間としてのサポートキャラ

  • 特徴
    • 物語序盤は日常的な兄妹関係だが、中盤以降エリオットと共に試練を分かち合う“仲間”に変化。
    • マイケルは行動力ある“補助リーダー”、ガーティは幼さゆえの“癒やし”や“素直なアイデア”を提供。
    • “大人が信じてくれない世界”のなかで、子供チームの結束を強固にする役割を果たす。
  • 物語作りへの示唆
    主人公一人の奮闘では乗り越えられない壁を用意しつつ、サブキャラが役割分担しながら解決をサポートする構成にすることで、物語のテンポが上がり、登場人物の魅力も高まる。
    特に少年少女がメインの物語では、“子供同士の連帯感”を描くことで物語全体に温かみと一体感をもたらせる。

8-4. 母(メアリー)& 大人たち:背景から理解者へ

  • 特徴
    • 母親は序盤ではエリオットの寂しさに気づけない存在として描かれ、物語中盤以降、E.T.の発覚により現実に直面。
    • 政府エージェントは当初“謎の脅威”として登場するが、クライマックスでは必ずしも悪ではない側面を見せる。
    • ヒーローズ・ジャーニーで言う「外的な強制力」「障壁」として機能する。
  • 物語作りへの示唆
    主人公にとっての障壁となる立場の人間を一方的な“悪”にせず、彼らも別の目的や正当性を持つ存在として描くことで物語に奥行きを与える。
    また、主人公が“日常世界へ戻る”際に大人とある程度和解や相互理解を実現する展開は、物語を現実感ある余韻に仕上げる要素になる。

9. 神話的構造と現代的要素の融合

『E.T.』は神話的・普遍的な構造である「ヒーローズ・ジャーニー」を子供の視点とSFファンタジーを掛け合わせることで、極めて鮮烈なドラマを生み出しました。そこには以下のような工夫が認められます。

  1. 主人公を“内面の欠落”から動機づける
    • 欠けた家族愛や孤独感を、冒険への強い呼び水にしている。
  2. 未知なる存在を“相互依存”に設定する
    • E.T.がただの怪物やペットではなく、主人公の心とリンクしているからこそ、死と再生が強い感動をもたらす。
  3. 師やメンターを明確化しない
    • 子供同士の協力がメンター的役割を担い、主人公の自発的な成長が際立つ構造となる。
  4. 大人が必ずしも“絶対悪”ではない
    • 対立者を多面的に描くことで、物語終盤の和解や希望に説得力を持たせる。
  5. 死と再生を劇的に扱う
    • E.T.の“死”と“蘇生”がクライマックス前後の大きな試練とカタルシスを提供。
  6. 主人公が学んだものを持ち帰る(成長の証)
    • E.T.との別離を経て、エリオットは家族とのつながりを再認識し、精神的に“日常世界”へ戻っていく。

これらの要素は、神話や古典冒険譚でも見られる普遍的なプロットを、子供の純粋さや現代の家庭問題(離婚・父親の不在)などに巧みに落とし込んだ点で大きな特徴があり、物語作りの“お手本”として非常に参考になります。

10. 物語作りに活かすためのポイント

最後に、これから物語を作ろうとする人にとって、『E.T.』のヒーローズ・ジャーニー的構造から学べるポイントをまとめます。

  1. “主人公の欠落”を序盤でわかりやすく提示する
    • エリオットの寂しさを冒頭で丁寧に描くように、読者や観客が主人公を“助けてあげたい”“共感したい”と思う下地をつくる。
  2. “冒険への招待”は主人公の内面にフィットした形で
    • ヒーローが拒否しつつも、結果的には逃れられないような事件や出会いによって、一歩踏み出す必然性を高める。
  3. “仲間”や“対立者”を多面的に描く
    • 一辺倒の勧善懲悪ではなく、それぞれの行動に根拠や信念があるキャラクター像を作ると物語に厚みが出る。
  4. “死と再生”を大きな転機に据える
    • 神話的モチーフとしては非常に強力。キャラクターの死や回復、主人公の精神的死と再生など、観客の情動を揺さぶる仕掛けを活かす。
  5. “帰還”は主人公の成長を見せる場
    • ミッション完了だけで終わらず、主人公が内面的に変わり、その変化を周囲に示すエピローグを用意する。“得たもの”が明確になるほど物語は感動的に締まる。

結論:『E.T.』が示すヒーローズ・ジャーニー的完成度

『E.T.』は子供向けファンタジーでありながら、その根底にはジョセフ・キャンベルのヒーローズ・ジャーニーと重なる普遍的な物語構造が緻密に埋め込まれています。主人公エリオットは、孤独を抱えていた“日常世界”から、迷子の異星人E.T.との出会いを機に未知の冒険へと身を投じ、試練を乗り越えながら大切な存在を守ろうと奮闘します。最大の危機であるE.T.の“死”を乗り越えた先に“再生”があり、最終的には“別れ”を経験しながらも、心を成長させて日常へ帰還する──これはまさに神話的構造の王道と言える展開です。

しかも、『E.T.』の場合、大人のキャラクターや社会システムを完全な悪役に仕立てず、“子供の目線”でその脅威を捉える工夫がなされているため、ストーリーが一方的にならず深みを保っています。エリオットとE.T.が指先を触れ合うシーンや自転車で空を飛ぶシーンなど、象徴的なイメージの数々は、原始的な神話モチーフ(聖なる接触や飛翔)を現代ファンタジーとして具現化した例でもあります。

物語作りを志す人にとっては、登場人物の役割をヒーローズ・ジャーニーの各フェーズに応じて“このキャラクターはどのように主人公を導くか”“主人公は何を乗り越え、何を得るのか”を明確に設計することが重要です。『E.T.』がそれを秀逸な形で実証しているのは、興行的にも歴史的名作となった大きな理由の一つでしょう。

結局のところ、ヒーローズ・ジャーニーは“人間が物語に求める普遍的な快感”を整理したものであり、『E.T.』のように子供の目線とSFファンタジーを通じてそれを活用すれば、多くの観客が感情移入しやすい物語を生み出すことができます。エリオットやE.T.の旅路を改めて分析すると、そこに不変のパターンがありながら、ユニークなキャラクター配置やテーマ性をもっていることがわかる。そうした“普遍と個性”のバランスが、『E.T.』という作品の時代を超えた輝きと言えるのではないでしょうか。

E.T.

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