【コラム】再び誕生したトランプ政権と映画・エンターテインメント業界の変遷

2025年1月20日、ドナルド・トランプ大統領が再びアメリカ合衆国の大統領に就任しました。前回政権(2017-2021年)でもエンターテイメント業界への影響はさまざまな形で語られてきましたが、今回の就任によって、世界最大規模のエンタメ市場を抱えるアメリカにはどのような変化が生じているのでしょうか。本稿では、映画をはじめとするエンターテイメント業界の現状と新政権下での方向性を振り返りつつ、日本を含む国際社会における影響までを考察してみます。

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1. 前回政権下での映画・エンタメ業界の動き

1-1. 「アメリカ第一」路線と映画産業への影響

前回のトランプ政権(2017-2021年)では、「アメリカ第一(America First)」という政治的スローガンを強く打ち出してきました。これは製造業だけでなく映画やテレビといったエンタメ産業にも少なからぬ影響を与えました。たとえば、外国資本による投資への制限や、国際的な合弁事業に関する監視強化などがありました。とはいえ、実際にハリウッドを象徴とする大手スタジオの多くはグローバルな市場を前提として作品を製作・配給しています。よって、政策面で国際協調よりも国内保護を重視する政権でも、劇的に映画の「国際化」が後退するわけではありませんでした。しかし、制作者らの心理的な影響は大きく、ハリウッドセレブの政治的発言や、映画のテーマとして社会問題を積極的に扱う作品が増加したといわれています。

1-2. ストリーミングサービスの台頭

2017年前後から急速に台頭してきたストリーミングサービス(Netflix、Amazon Prime Video、Disney+ など)は、トランプ政権期を通じてさらに勢いを増しました。劇場公開の形態を重視する旧来のスタジオ・システムと、ストリーミング配信を中心とする新興勢力との「主導権争い」が先鋭化し、コロナ禍(2020年前後)によって劇場型ビジネスが一時的に打撃を受けたこともあり、配信プラットフォームをめぐる競争は過熱しました。トランプ大統領自身はストリーミングサービスに関して直接的な規制を打ち出すことはありませんでしたが、SNS企業やIT企業の独占に対しては批判的な発言を何度も行っていたため、一部では「NetflixやAmazonへの規制強化があるのではないか」という観測も流れました。

1-3. 前回政権末期に生じた業界分断

2021年にバイデン政権へ移行する直前、政治的分断が加速したアメリカ国内では、映画業界にも意見の相違が浮き彫りになりました。リベラル色の強いハリウッドの人々はトランプ政権を積極的に批判する立場である一方、保守色の強い層や地方の映画ファンなどの支持は依然として根強く、一枚岩ではなかったのです。この分断は2021年以降の数年間で、一部の製作会社がより明確に政治的スタンスを打ち出すようになるなど、エンタメの世界にも色濃く反映される結果となりました。

2. 2025年、再度就任したトランプ大統領と新政権下の政策

2-1. 「アメリカ第一 2.0」の再強化

2025年1月20日に再び就任したトランプ大統領は、前回と同様に「アメリカ第一」を主張しつつも、より現実的な落としどころを探っているようにも見えます。インフレや国債の問題が深刻化するなかで、あらためて国内雇用の確保と国際競争力の維持が最重要課題とされています。映画・エンタメ業界においては、大手スタジオが海外からの投資を受け入れる際の規制は強化される兆しがある一方、アメリカ内での映画制作拠点を増やすインセンティブとして税制優遇を行う、という二面性を持った動きも取り沙汰されています。

2-2. ハリウッドへの直接的な働きかけ

新政権は早速、ハリウッド大手スタジオの経営陣と会合を持ち、その場で「国内撮影に回帰することで新たな雇用を生み出す施策を求めたい」という考えを表明したと報じられています。具体的には、ロサンゼルスやジョージア州アトランタ、ルイジアナ州ニューオーリンズなど映画撮影が盛んな都市における撮影補助金や税制面の優遇措置をさらに拡充することで、海外ロケよりも国内ロケを積極的に行いやすい仕組みを作ろうという狙いがあるようです。前回政権下でもジョージア州などでは州独自の税制優遇により撮影がブームになりましたが、今回は連邦レベルでの支援がさらに強化される可能性が取り沙汰されています。

2-3. SNSや配信プラットフォームへの規制観測

2025年現在でも、Netflix、Amazon Prime Video、Disney+、Apple TV+、HBO Max(Max)など大手ストリーミングサービスの勢力は衰えていません。一方で、トランプ大統領はSNSやITプラットフォーム各社の権力が「偏った発信を助長している」として批判を再び強めています。映画やドラマの配信に直接関係する動きとして、特定の政治的テーマを扱う作品に対する規制強化が行われるかどうかが焦点となっています。表現の自由を尊重すべきという声は依然として大きいものの、政権が「国益や社会秩序に反する作品」を問題視する可能性も否定はできず、この点についてハリウッド側は慎重な姿勢を見せています。

2-4. 国際合弁や海外市場への影響

米中関係の悪化や、各種貿易問題において、前回政権時ほど極端な対立路線を取るかどうかはまだ不透明です。しかし、中国をはじめとしたアジア市場はハリウッド映画にとって依然として大きな興行収入源です。そのため、大手スタジオは政治的リスクを慎重に見極めつつ、必要に応じて共産党の検閲に配慮しながら中国市場への映画を投入してきました。新政権下での外交政策がどう展開していくかによって、中国資本が絡む映画製作案件や海外配給スケジュールに変化が生じる可能性は高いといえます。

3. 現在の映画業界における主な潮流

3-1. ストリーミングの定着と劇場との共存

2025年において、すでにストリーミング市場は成熟期に入りつつあります。コロナ後の世界では、観客が再び劇場で映画を楽しむムーブメントも復活し、今では「劇場公開+ストリーミング配信」というハイブリッドな形態が定番となりました。大作映画はまず劇場公開を行ってから一定期間を経て配信に移行することが多い一方、低中予算の作品や実験的な作品は初めから配信をメインとするケースも増えています。これにより、制作サイドは作品の規模やジャンルごとに公開形態を使い分けるようになり、映画の多様性が増しているとも言えます。

3-2. IPビジネスのさらなる拡大

マーベルやDCといったコミック原作のフランチャイズ映画、あるいは『スター・ウォーズ』や『ジュラシック・パーク』のように往年からの人気シリーズを拡張していくIPビジネスは引き続き拡大を続けています。世界的な認知度の高い作品群は、映画だけでなくドラマ、アニメ、ゲーム、テーマパークなどのクロスメディア展開を前提として、安定的な収益を確保できるためです。新政権になったことで直接IPビジネスの方向性が変わることは考えにくいですが、企業買収や合併をめぐる独禁法の監視が強化されるか否かで、IPを大量に抱えるメディア企業同士の合従連衡には影響があるかもしれません。

3-3. AI・デジタル技術と映画製作

2020年代中盤に入り、映画製作や映像表現においてAIやVR/AR(仮想・拡張現実)技術の活用が目立ってきています。脚本の初期構想段階でAIを使ったプロット分析を行ったり、ポストプロダクションでのVFX作業をAIが部分的に支援する事例も珍しくなくなりました。また、AIを活用した「デジタル俳優」の可能性や、過去の著名俳優を若返らせるディエイジング技術がさらに進歩し、エンタメ業界に新たなビジネスチャンスを生み出しています。これらの技術革新はトランプ政権という政治文脈に関わらず、世界的なイノベーションの潮流として今後ますます加速するとみられます。

4. 日本への影響

4-1. 米国との共同制作体制・投資環境

近年、日本の映画産業はアニメや漫画原作を中心に世界的な注目を集めています。日本国内のスタジオとハリウッドの共同制作プロジェクトも徐々に増えつつあり、アメリカの製作会社が日本のアニメ制作会社とタッグを組んでオリジナルアニメを世界に配信する例も増えました。もしトランプ政権が「海外資本の流入規制」を強化する方向に動けば、アメリカ側から日本に対しての投資や共同プロダクションが影響を受ける可能性があります。しかし同時に、トランプ政権が国内制作支援を拡充することで、アメリカ企業が海外(日本含む)から技術協力を積極的に呼び込むという形もあり得ます。したがって、今後の日米共同プロジェクトは、政治的状況を見極めながら柔軟に契約形態を調整していくことが重要になりそうです。

4-2. 映画の国際配給と日本市場への影響

日本市場はハリウッドにとって北米、中国に次ぐ主要な興行収入源の一つです。前回のトランプ政権期においても、ハリウッド映画は日本市場でほとんど変わらず公開されてきました。一部で関税や貿易交渉の行方による配給コストの高騰が懸念されたこともありましたが、実際にはエンタメ関連製品への関税大幅アップは行われませんでした。現時点でも同様に、大統領が代わっても映画配給に関する日米間の大枠の仕組みは維持される可能性が高いとみられます。しかし、新政権下で突発的な外交摩擦が起きれば、配給ルートや映画祭での上映スケジュールなどに影響が出ることは否定できません。

4-3. 日本国内の映画産業再編への示唆

一方、日本国内でも配信プラットフォームを中心に業界再編が進んでいます。特にNetflixやAmazon Prime Videoが日本のドラマやアニメ製作に積極的に出資することで、テレビ局主導の製作委員会方式と配信プラットフォーム主導型モデルがせめぎ合う構図があります。アメリカの動向は日本のエンタメ業界にとって常に大きな参考事例となります。トランプ政権が国内の映像制作拠点を強化していくように、日本国内でも「ローカルコンテンツの保護」と「グローバルなデジタル配信競争への参入」という2つの課題の両立が迫られるでしょう。

4-4. 政治的テーマや社会問題への反応

日本の映画市場では、社会問題を真正面から扱う作品は欧米ほど多くはありません。しかし、ハリウッドの動きが「政治的主張を含む作品が増える」方向にシフトしていけば、その影響を受けて日本でも少しずつ政治的・社会的メッセージを強く打ち出す作品が注目を集めるかもしれません。実際、前回政権の2020年代初頭に公開されたいくつかのハリウッド映画は、移民問題や人種差別、女性の権利などをテーマに据えて話題になりました。こうした社会問題への意識が映画の大きなアピールポイントとなる現象は、グローバルな価値観の変化として日本にも波及する可能性があります。

5. 今後の展望:分断と多様性のはざまで

5-1. 政権とエンターテイメントの“微妙な距離感”

歴史的に見て、アメリカの政権とハリウッドの関係は常に微妙な距離感がありました。ハリウッドは民主党寄りのリベラル志向が強い傾向にありつつも、映画ビジネスの面では保守的な政策(減税や産業振興策など)を歓迎する企業も少なくありません。トランプ大統領自身、前回政権下でハリウッドのリベラル体質をたびたび批判しながらも、大手スタジオからは一定の資金提供を受けていたという指摘もありました。2025年以降の新政権においても、エンタメ業界は政治色を強めるのか、それとも距離を置くのか、このバランスの取り方が大きな注目点となるでしょう。

5-2. 「アメリカ第一」がもたらす国際ビジネス機会

経済や貿易に関する「アメリカ第一」姿勢は、海外から見れば閉鎖的に映ることもありますが、実際には新しい投資やビジネスチャンスを生む可能性をはらんでいます。映画やドラマ制作では、多額の資金を回して大規模プロジェクトを動かすために海外資本を含むさまざまな出資が不可欠です。前回政権期には、表向きの保護主義的発言とは裏腹に実質的にはグローバル資本をうまく取り込み、映画の興行収益を伸ばした例も多々ありました。2025年からの新政権も、国内雇用拡大策と国際市場攻略をいかに両立させるか、手腕が問われるところです。

5-3. 国内外のファンを巻き込む「エンタメの政治化」

SNSがさらに普及し、ファン同士のコミュニティが世界規模でつながっている現代、映画やドラマといったエンタメ作品は政治や社会問題と切り離せない存在になっています。大物俳優や監督が政治的メッセージを発信すると、瞬時にそれが国内外の視聴者に伝わり、支持や批判の声が渦巻きます。トランプ大統領の再就任をきっかけに、アメリカ国内の政治的イデオロギー闘争がエンタメ界隈に波及しやすい環境は前回よりもさらに進んでいると見る向きもあります。この流れが今後どのように作品制作やPR活動に影響するのか注目されるところです。

5-4. 日本のファンコミュニティへの影響

日本でも、SNSを通じてハリウッドスターや海外作品のファンダムが活発に活動しています。俳優や監督の政治的発言を受けて日本のファンコミュニティの間で議論が巻き起こり、作品ボイコットや逆に支援キャンペーンが立ち上がることが増えてきました。このような動きは以前よりもスピードが速く、かつ大規模化しています。トランプ政権という政治的大イベントは、それらのファンダムやコミュニティ活動に更なる論点を提供し得るのです。日本の映画ファンがどのような姿勢を取るか、そしてそれが配給会社や映画館の興行戦略にどう影響していくのかも興味深いポイントとなります。

6. まとめ:エンタメが映す政治と社会の行方

トランプ大統領が2025年1月20日に再び就任したことで、アメリカを中心とする映画・エンターテイメント業界が新しい局面を迎える可能性は十分にあります。もっとも、映画やドラマといったエンタメ産業は世界的に巨大化・複雑化しており、一国の政権が変わるだけで大きく一変するものではありません。実際に製作や配給、メディア企業の体制などを見れば、これまで培ってきた国際的なネットワークや資本構造が存在し、アメリカという市場だけに依存しない新たな流れも加速しています。

しかし、政治的・社会的な雰囲気は作品のトーンやテーマ選択、あるいは出演者やスタッフの発言や行動に少なからず影響を与えます。前回の政権下で「社会派」や「政治的メッセージを含む」作品が注目されたように、今回も再び議論を巻き起こすような作品が生まれてくるでしょう。そうした動きは、日本をはじめとする海外の映画ファンにも広く波及し、さまざまな形での議論や文化的交流が進むことが期待されます。

今後、ハリウッドと政治のかかわり方がどう変化していくのか。保護主義的な政策とグローバル化するエンタメビジネスの狭間でどんな舵取りが行われるのか。日本の映画産業はアメリカにどのように接続し、新たなチャンスを掴むのか。それらはまだ予断を許さない状況ですが、エンターテイメントが「時代の空気」を反映することは確かです。

2025年、再びトランプ政権を迎えたアメリカ。その動向に注目しつつ、私たちが映画館やストリーミングサービスを通じて目にする作品の中に、時代の移ろいや政治社会の変動がどのように映し出されているのかを見極めていきたいものです。

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