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はじめに
映画やドラマの脚本づくりにおいて、長年愛用されてきたのが「三幕構成(3-Act Structure)」です。物語を「導入(第1幕)」「葛藤(第2幕)」「解決(第3幕)」の3つに分割することで、ストーリーの骨格をつかみやすくなり、観客を飽きさせない起伏ある展開を作りやすくなります。
ここでは、三幕構成で脚本を作るための準備と、実際に書き始めるときの具体的なステップをご紹介します。さらに、脚本家のための心構えや準備しておくべきものも併せて解説していきます。
1. 準備段階
(1) コンセプトの明確化
- 何についての物語か?(テーマ)
例:「人と自然の共存」「家族愛」「恐怖を克服する物語」など。 - 誰の物語か?(主人公)
主人公はどんな人で、どんな問題を抱えているのか? - どんなジャンルか?(ホラー、SF、アクションなど)
テーマとジャンルの相性を考えると物語がブレにくくなる。 - 映画のトーンは?(シリアス、コメディ、ダークファンタジーなど)
シリアスに振り切るか、コミカル要素を入れるかなど、全体の空気感を決めておく。 - どのような感情を観客に与えたいか?
「笑わせたい」「驚かせたい」「感動させたい」など、作品が目指す感情をハッキリさせる。
(2) 主人公とキャラクターの設定
- 主人公(Protagonist)
- 目標:何を達成しようとしているのか?
- 欠点やトラウマ:どんな課題を抱えているのか?
- 変化の軌跡:物語を通じて、どう成長・変化するのか?
- 敵対者(Antagonist)
- どんな脅威をもたらすのか?
- 主人公とはどのような点で対立するのか?
- その敵が抱える価値観や背景は?(単なる悪役にしない工夫)
- サポートキャラクター
- 主人公をどう支えるのか、あるいは支障をきたすのか?
- 主人公との関係は?(友人、師匠、恋人、ライバルなど)
(3) 物語の骨格を固める
- 対立軸の明確化
- 物語の「問題(Conflict)」は何か?
- なぜ主人公がそれを解決しなければならないのか?
- ロケーション・世界観
- 舞台はどこか?(温泉街、近未来都市、異世界など)
- その場所特有の文化やルール、季節感は?
- 観客にとって目新しい設定やビジュアルはどんなものがあるか?
- キーとなるビジュアル
- 記憶に残るシーンや象徴的な映像を考える。
- 例:「温泉街の湯けむりの中から巨大なサメが出現するシーン」など。
2. 三幕構成のストーリー設計
三幕構成では、物語を大きく「導入(第1幕)」「葛藤(第2幕)」「解決(第3幕)」に分けます。それぞれの幕で果たす役割が異なるため、ポイントを押さえておくとスムーズに書き進められます。
第1幕(Setup)
- オープニング・シーン(冒頭5~10分)
- 映画のトーンや世界観を提示。
- 主人公の日常や背景を手短に紹介し、読者がすぐ物語に入れるようにする。
- フック(観客を引き込む要素)
- 冒頭でどんな興味を引くことができるか?
- 「次はどうなるんだろう?」と思わせる仕掛けが鍵。
- 誘発事件(15~20分)
- 主人公が巻き込まれる問題や事件が起こる。
- 物語が本格的に動き始めるキッカケ。
- 第1ターニングポイント(25~30分)
- 主人公が初めて大きく行動を起こす決定的な出来事。
- ここで「物語の方向性」が定まる。
第2幕(Confrontation)
- 主人公の試練と成長
- 問題に直面し、試行錯誤しながら解決策を探る。
- 仲間を得たり、新たな敵と出会ったりする中で葛藤が深まる。
- 中盤の大きな出来事(ミッドポイント、60分前後)
- 主人公の計画が失敗したり、意外な事実が判明したりして物語が大きく転換する。
- 第2ターニングポイント(75~90分)
- クライマックスに向けた大きな決断や、状況がガラッと変わる出来事。
- 主人公が「これまでとは違う行動」を選択するきっかけになる。
第3幕(Resolution)
- クライマックス(90~110分)
- 最大の戦い、最大の困難に挑む場面。
- 主人公の成長や変化が最もはっきり表れる。
- エンディング
- 物語の結末。伏線の回収やキャラクターの行く末を描く。
- 余韻を残すエピローグを入れてもよい。
3. 書き始めるためのステップ
- シノプシスを書く
- 物語全体を1~2ページでまとめる。
- 誰が主人公で、どんな対立や出来事が起こるのか、結末はどうなるかを大まかに書く。
- アウトラインを作成
- 三幕構成に合わせて、主要な出来事・ターニングポイントをリスト化。
- ここで“シーンの順番”をざっくり決めると、あとがラク。
- キャラクターシートを作る
- 主要キャラクターの背景や動機、性格、トラウマなどを整理。
- シーンリストを作成
- 「どのシーンで何が起こるか」をリスト化しておく。
- シーンごとに“目的”を設定し、ダラダラした展開にならないように注意。
- 脚本を書き始める
- シーンリストを参考にしながら、対話やアクションを具体的に埋めていく。
- 最初は荒くてもかまわない。書き上げたあとでリライトすればよい。
4. 脚本家のための心構え
① 観客の視点を常に意識する
- 「何を感じてほしいのか?」が明確だと、シーンの演出やセリフに迷いが少なくなる。
- ただ単に物語を語るのではなく、観客の感情をどう動かすかを常に考える。
② 「完璧な脚本」より「書き上げること」が最優先
- 最初のドラフトは完璧でなくていい。
- まずは「三幕構成に沿って最後まで書ききる」→「リライトで磨く」の流れを意識。
③ 主人公に「選択」をさせる
- 受け身ではなく、どこかで必ず大きな“決断”をさせることで、ドラマは盛り上がる。
- 困難な選択を入れると、キャラクターの内面が深まる。
④ 「キャラクターがストーリーを動かす」
- プロットありきではなく、キャラクターの欲望や動機を優先して考える。
- キャラクターの行動が物語の展開を決定づける、という視点を忘れずに。
⑤ 「シーンごとに目的を持たせる」
- すべてのシーンは「ストーリーを前進させる」か「キャラクターを掘り下げる」かのどちらか。
- どちらにも当てはまらないシーンは削るか作り変える。
⑥ 「ギャップ」を作る
- 期待と異なる展開、キャラクターの意外な行動などで観客を驚かせる。
- ただし、“納得できる理由”がある裏切りだと、余計に深みが出る。
⑦ 「テーマをブレさせない」
- 最初に決めた「この物語で一番伝えたいこと」を軸に、シーンを見直す。
- テーマが一貫していると、脚本全体にまとまりが生まれる。
⑧ 「ラストを意識して書く」
- 結末のインパクトが物語全体の印象を大きく左右する。
- 最初と最後を対比させるなど、効果的な演出を仕込むと深みが出やすい。
5. 脚本を書くために準備しておくもの
① 物語の骨格
- テーマ(何を伝えたいのか?)
- 主人公の目標(何を達成しようとするのか?)
- 対立する要素(敵・障害・葛藤)
- キャラクターの変化(最初と最後でどう変わるのか?)
② 三幕構成のアウトライン
- 第1幕:主人公の世界観、事件の発生、物語が動き出す。
- 第2幕:試練や困難の連続、中盤の大きな転機、最大の挫折。
- 第3幕:クライマックス(劇的な対決)、結末、余韻を残す終わり方。
③ キャラクターシート
- 名前、年齢、職業、性格
- 物語開始時の状態と終盤での状態
- 抱えている心の傷やトラウマ
- 好き嫌い、習慣など細部を設定すると生きたキャラになる。
④ シーンリスト
- 主要なシーンを箇条書き
- それぞれのシーンで「何が起こるか」「どんな目的があるか」を明確化。
⑤ 映画を観る&脚本を読む
- 同じジャンルの映画を研究
例:「怪獣映画なら『ゴジラ』や『パシフィック・リム』などを分析」 - プロの脚本を読む
テンポ感やセリフの書き方が非常に参考になる。
6. まとめ
● 心構え
- 観客の視点を意識する
- 書き上げることを優先(完璧を目指しすぎない)
- 主人公に選択させる(受け身ではなく能動的なキャラを目指す)
- キャラクターの動機がストーリーを動かす
- シーンごとに目的を持たせる
- ギャップを活かす(驚きと納得の両立)
- テーマをブレさせない
- ラストを強く意識する
● 準備するもの
- 物語の骨格(テーマ・主人公・対立)
- 三幕構成のアウトライン
- キャラクターシート
- シーンリスト
- 参考映画や脚本の研究
この準備と心構えをしっかり固めたら、あとは「とにかく書く」こと。最初は粗削りでもかまいません。大切なのは最後まで書き切り、そこからリライトを重ねて磨いていくプロセスです。
脚本執筆は大変ですが、その分だけ「物語を生み出す喜び」を味わえます。ぜひ三幕構成をうまく活用しながら、自分だけのオリジナリティあふれるストーリーを作り上げてください。あなたの書いた脚本が、多くの人の心を揺さぶる映画になる日を楽しみにしています!