京王新宿線芦花公園駅から徒歩で5分あまりのところにある「世田谷文学館」にて、2016年8月に小林正樹監督の展示が行われていたので行ってきた。
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世田谷文学館
世田谷文学館
東京都世田谷区南烏山1−10−10
※改装工事のため2017年4月まで休館中
日本SF展、浦沢直樹展、岡崎京子展や星新一展など、世田谷にゆかりのある文学人だけでなく漫画家やクリエーターを特集していて、今回は映画監督。本当に面白い企画展示を行っているので常にチェックをはずせないことろである。
映画監督・小林正樹
小林監督といえばカンヌ受賞で知られ「人間の条件」「切腹」「怪談」「上意討ち」などの代表作がある。日本のハラキリを世界に知らしめ、黒澤明、小津安二郎にならぶ日本映画界の巨匠である。その小林監督の人間的な部分を知れる良質な展示でだった。世田谷文化館の企画力と懐の深さを知らしめるものでした。
特に印象深いものがあったので紹介
それは・音楽家の武満徹さんから小林正樹監督への直筆メモ
1964年「怪談」の音楽を映像に付けた後に書かれたものである。
「フィルムに表れた結果として、ご期待にそえなかったことを誠に申し訳ないと思います」
「映画は恥知らずの映画製作者と無能な映画的技術家のものではない」
「私は映画界のくさった美的感覚の全くない世界とは、これ以上つきあえない」
「私には芸術家としての誇りがあります」
この場合、現場の音声担当との人間の間に大きな確執があったのだろうと推測できる。音楽の編集とミキシング・ダビングが全く納得いかなかったのだろう、クレジットをはずしてほしいとまで言っているから相当なものである。「切腹」では毎日映画コンクール音楽賞を受賞し、邦楽器とのコラボレーションをしている。その「切腹」の後に勅使川宏監督の「砂の女」を手がけての「怪談」であった。
このメモの隣に展示されていた1986年に小林正樹監督へ送られた手紙には、改めて観ての映画「切腹」のすばらしさと今の映画界を憂う言葉綴られていた。どうみても、武満徹さんは職人的な映画制作者とはウマが合わないのだろう。監督は職人というよりは、同じ芸術家という職業であるから。
興味深い展示の数々
「人間の条件」のポスターを始め、初期作品の脚本。映画界に入った当初は松竹で助監督として木下恵介監督についていた。とても優秀で実力が認められ、中編の青春映画でデビューを果たしている。青春映画を任されるのは、松竹の監督デビューパターン。安部公房脚本で「壁あつき部屋」(1953年)に作っているのだが、GHQの顔色を伺うような作品のために公開が1956年になっている。その「顔あつき部屋」のポスターや台本も展示。今回の展示で自分も初めて知ったのだか、田中絹代さんの従兄弟だったらしく、当時はそのことを隠していたようです。古美術品収集の趣味がおありで、アジアやヨーロッパに行った際に購入した品々が展示、自宅の部屋も再現されていました。今回展示の中で一番有益というか、面白かったのは、「怪談」におけるイメージボード。こと細かくすべてのシーンの意味合いと色のトーンを指示してあるものが壁一面にはってあり、それを眺めていると小林監督の頭の中を覗いているようである。
安部公房の脚本の「壁あつき部屋」松竹からDVDも出ているので要チェックです。